猫は女の化身

tido2004-04-02

(↑写真はロシア映画『こねこ』のパンフレット)
バイト明けで重い眠りを抱えたまま、ポレポレ東中野にてモーニングショー。『ネコのミヌース』公開記念の「こどもとネコのえいがとくしゅう」の中の1本『怪猫呪いの壁』を観る。三隅研次監督、勝新太郎主演。
データベースを見ると、どうやら勝新は『怪猫』シリーズに続けて出ているようで、『呪いの壁』以前にはあの入江たか子との共演もあるようだ。ちょうど少し前の「三島本」の著者いいだももがこんなことを書いていたので引用しておこう。

 鶴見俊輔さんの説によると、戦前の代表的美女であった入江たか子さんが戦後通用しなくなったのは、東坊城子爵令嬢という貴族身分がちっともありがたくなくなったこと、静止的な美しさではなくテレビ向きの活動的なパーソナリティが喜ばれるようになったこと、"裸の力"が要求されるようになったことによるのだそうです。
 そこで戦後の入江たか子さんは、化け猫映画にもっぱら出演して、"生き残った者のうらみの象徴"になっている、というわけです。

…というわけである。
さて、『怪猫呪いの壁』にはその入江たか子は出演していないわけであるが、勝新と三隅のコンビによるホラー映画というだけでも、ぼくには十分魅惑的で、睡眠を諦めてでも観に行く必要があったのだ。そして、ポーの『黒猫』と日本風の怪談が調和した独特の映画はなかなか迫力の内容だった。なんといっても、嫉妬のために美しく純粋な女をリンチ殺人を犯してしまう殿様の側近たちの描写が良い。考えてみれば、この映画の冒頭は、その欲にまみれた側近の中の男女2人の恋模様から始まっており、ぼくはまんまと騙されてしまったのだ。もっとも、すぐにそいつらの悪事は露呈するが…。
黒猫の反復される鳴き声と殺された女の怨念。そして、物理的な問題のためなのか暗すぎる色調。これらが恐怖を醸成し、爆発させる。ぽかぽか陽気の中のモーニングショーではさすがに恐がれなかったが、然るべき時に観ていれば後を引きそうな映画だ。アクロバティックな動きも少し見せてくれる「化け猫」の恐ろしさ、その一方では、若き勝新が事件解決の探偵役として、殺された妹への想いを抑制された演技で見せる。おそらく初期の勝新としては、かなり魅力的な部類に入るだろう。初期の勝新の白塗りの顔と少し高めの声は、『座頭市』『悪名』『兵隊やくざ』などの勝新を知った後で見ると、その存在が薄れてしまいがちだが、『まらそん侍』や『次郎長富士』などを併せて考えても別の角度から注目に値するような気がする。市川雷蔵との比較ではなく、別の角度が必要だ。