新刊

ハンス・ベルメールの装丁に惹かれて金原ひとみの新著『アッシュベイビー』を買う。芥川賞の2人では福田和也にならって、ぼくも綿谷りさの方が断然良いと思ったりしたけど、斎藤環の「芥川賞ポストモダン化」にならって、金原ひとみのフラットさに注目しようとも思った。村上龍についてこの日記で触れた時にも思ったが、金原ひとみはその資質において村上龍を受け継いでいる。『アッシュベイビー』の一人称も女だった。そのうち、男の視点の小説や『すべての女は…』みたいなエッセイでも書いて欲しい。
『文藝』の特集は阿部和重。これは買わずにはいられない。森達也の『下山事件』をほぼ読了して思ったのは、阿部和重の『シンセミア』だった。田宮家の歴史と下山事件関連者たちの歴史。占領軍=アメリカが去った後も、その影は残り続け、人々の陰部に影響力を誇り続けている。しかし、語り口の旨さや物語としての完成度の高さから、虚構性を強めている印象をぬぐえない『シンセミア』に比べると、『下山事件』は森達也自身の煩悶を取り込みながら、ドキュメンタリー作家としての自己言及の視点を介在させ、時空の壁を必死で乗り越えようとしている。その姿勢は、虚構を乗り越え、現実に近づくことを可能としているのだ。