オウム事件の隙間で

当時、95年に一時的にワイドショーで取り上げられたという「美人OL密室殺人事件」から発想された瀬々敬久監督『終わらないセックス』(原題『夜鳴く蝉』)をDVDで観る。この映画で井土紀州が脚本デビュー。
男女のシリアスな情事を東京を舞台に、特に密室(アパートの部屋、コインランドリー、電車、地下鉄の構内、オフィス)を中心に描く。原題に含まれている「蝉」がメタファーになっていて、清掃会社で働くナイーヴな青年の心情をイメージで担う。
瀬々監督の演出は、密室を奥行きのある構図、長回しでテンションの高い芝居を持続的に見せる。本人が言う「世界観映画」からは遠のいていて、めずらしくも「芝居の映画」である。また、断片的に場面を切り取り、時制をパラレルに描いていく手法を用いている。オウム事件の最中、一時的ではあるがキャッチーな事件を発案の素としたことで、オウム的なものから批評的な距離をとることに成功している。DVDには監督らによる解説(というか緩い鼎談)が収録されているが、無意識的に「終わりなき日常」を反映しているということは、今だからこそ自覚しているようである。
そういった意味で、後の『トーキョー×エロティカ』に接続しうる重要な映画と言えるかもしれない。こちらでは、東電OLとオウムのモチーフが具現化されていたのだし、瀬々監督もパンフレット等で見た限り、かなり自覚的に取り組んでいたと思う。再び『トーキョー×エロティカ』を観なくてはならない。