何もかも面倒臭くなってきた

tido2005-09-18

先日id:hibikyさんからいただいたおかげで念願のひとつが叶った。勝新の『顔役』のビデオである。

  • 顔役(監督/製作/共同脚本/出演:勝新太郎

文句のない70年代の傑作だった。『折れた杖』と同様、世界を触覚で受け止めているかのような独特なカメラワークや音・映像の構成で冒頭から目眩を覚えるほどで、それは最後まで緩むことなく持続する。全体像をとらえられないもどかしさが、独特の感触を生んでいるのだ。
アップでとらえられたキューピー人形が車に轢かれた瞬間に焦点をずらされるタイトルバックのショットがまさにそうであるように、決定的なものはとらえられないのだが、その反面、粘っこい反復があったりする。『折れた杖』でも、座頭市には見えていないはずの、老婆の死に様(橋の穴から落下する)が脅迫的に反復されるというのがあったけど、『顔役』で勝新が演じる刑事にも似たような反復が訪れる。
物語は深作欣二の『県警対組織暴力』みたいな感じに進むのだが、体感されるものはまったく違う。カメラワークや照明や音楽に至るまで、徹底的に勝新太郎なのだ。特にラスト。泥沼の抗争が若山富三郎の登場によって収束した後、刑事をやめて路頭に迷っていた勝新をかつての後輩が見つけ、再び警察手帳を渡され、刑事として目の敵にしていた組長を連れ出し、何もかも面倒臭くなってきたと言ってどんな行動に出たかといえば……業を背負う座頭市という存在の裏側にこんな存在が同居するからこそ、やはり勝新太郎である。