『ニワトリはハダシだ』

舞鶴を舞台に繰り広げられる群像大活劇。森崎東の手腕は健在だった。原田芳雄倍賞美津子のコンビが復活しているが、2人の役柄は別れた夫婦。その子どもとして知的障害児の兄と幼いがしっかりした妹がいて、兄は父の元、妹は母の元に住んでいる。兄妹はとても仲が良いが、夫婦の仲は気まずさが残っていた顔を合わせると波風が立つ。そういった家族を中心に、様々な群像が絡んでくる。検事−警察の内部権力、警察とヤクザの癒着、在日朝鮮人、知的障害児の学校で働く女、その女の壊れた家庭…すべてが複雑に絡み合いながら収斂していくラストまでの語り口は見事である。
それにしても、森崎東的と言っていい要素がこの映画にも数々登場する。下ネタはもちろんのこと、不吉なものとしての発電所、擬態したまま走り出す車、ロシア人の女、在日朝鮮人、知的障害児、動物*1などが導入されている。もちろん特権的に描かれるのではなく、ひとつひとつが映画の要素として同じ水準で描かれている。そのようなある種「特異なもの」を鮮やかな手さばきで扱ってみせる森崎東は、今もなお注目すべき監督のひとりであり、ぼくはますます映画の計り知れなさ=驚きを実感したのだった。

*1:森崎的動物とは、訓練され役者のように扱われる動物ではない。例えば高橋洋は『ラブ・レター』において登場するカラスの不吉さを指摘したことがあり、確かその時の発言によると、森崎監督は多数のカラスの足を縛って撮影したらしい。確証はとれてないが…