『座頭市 あばれ火祭り』

これまでぼくが観たどの「座頭市」とも異なる印象である。三隅研次のテイストは十分生かされていて、「業」の物語もロマンスもあるし、定番のライバル浪人も登場するし、森雅之の演じる闇公方という「めくら」の最強悪まで登場する。それだけではなく、ピーターの演じるやくざ者にあこがれる青年も絡んでくる。とにかく、これでもかというほどに豪華な中身である。
ぼくが異なるという部分は、独特の語り口にある。飄々としたテンポで断片が紡がれていくというその語り口は、他の三隅版「座頭市」における各要素が緊迫感を結んでいく演出とは違っていて、一応は直線的な物語の依拠しながらも、結びつきの緩いエピソードが連鎖するのだ。流れるBGMさえも、それを擁護するかのように、突然鳴り始めたり突然止まったりしてどこかゴダールのソニマージュを思わせる*1
物語半ばの銭湯での戦闘シーンなど最高に楽しい。お静こと大原麗子の美しさにも魅了される。闇公方こと森雅之が「市い、お静は、死ぬ時にいい声を出すだろうて。」と悪の権化ぶりを見せる場面は圧巻だった。ポエジーの宿る『座頭市 あばれ火祭り』もどうやら好きになってしまったようだ。

*1:というか、ぼくの印象では「旧ルパン三世」の音使いに近い。台詞の入る前に急にピタッと止まる感じ。