砂漠を泳ぐユーモア

ビデオでレンタルしていた藤田敏八監督『赤ちょうちん』を観る。これも74年だから70年代の砂漠を駆け抜ける映画なのだが、藤田敏八は独特の位置にあると改めて思う。そもそも秋吉久美子という存在がそのまま70年代的だと言えということもあるだろうが、何となくじわじわ迫ってくるようなユーモアが、砂漠の(非)物語をとても楽しい、まるで宝探しのようなものに変質させている。
藤田作品における秋吉久美子(74年〜)*1を見ていると、よく括られがちな桃井かおり(71年〜)や伊佐山ひろ子(72年〜)とは少し違うという印象を受けた。ぼくの個人的な印象だけど。でも、例えば『赤ちょうちん』で、長門裕之演じる詐欺師がリンチに遭っているのに怯えたり、母親として近所付き合いのわずらわしさに毅然とした態度を見せたり、放心したまま鶏肉にかぶりついたり…という方向性の違う表情・佇まいを許容しているのを見ると、これは桃井かおり伊佐山ひろ子では想像できない気がした。それが決定的な違いとは言えないけれど、ぼくの直感はもっと特異なものを感じ取ったのだった。
同じぐらいの時期の藤田作品には、ぼくにも馴染みのある風景が登場してくる。BGMにも半ばネタ的に「神田川」が使われたりする一方、引っ越しを繰り返す男女の生活と風景はぴったり調和しているように思え、70年代の都市風景というのも気にしなければいけない…とそんな感想を抱いた。何度観ても傑作である。

*1:カッコ内はそれぞれ映画デビューした年。