ハードボイルド

銀座シネパトスで崔洋一特集。今日は『友よ、静に瞑れ』。北方謙三原作のハードボイルド。そして角川映画藤竜也倍賞美津子原田芳雄室田日出男…とキャストが良い。宮下順子や中村れい子も出ている。
沖縄を舞台に、金にものを言わせる土建屋(下山建設)の支配と、それに抵抗するモーテルの住人。土建屋にはめられて留置所に入れられた友を助けるために、都会からやってきた藤竜也が地道に状況の打開を図ろうとする。抑制された雰囲気が持続する中、登場人物はみなが過去を匂わし、近年の「沖縄らしい」映画とはまったく異なる静謐さを呈する。
ボクシングが絡んできたので、前に観た『マブイの旅』を思い出したが、ほとんど海が描かれないこともあって、印象が違う。藤竜也はハードボイルドの探偵役なのだが、ほとんど成果を上げることがなく、ただ時間だけが過ぎてゆくのだ。
時おり挿入される飛行機の爆音は、やはり沖縄の現実を反映させたのだろうか。中江監督の『ホテル・ハイビスカス』でもやっていたな…。しかし、この『友よ、静に瞑れ』は沖縄映画でありながら、言葉に関しては標準語が用いられていて、おそらく台詞は原作を重視したであろうハードボイルドらしいものなので、やはり角川映画の下に現実より虚構ということなのだろう。もっとも、倍賞美津子が出ていると、標準語であっても、異国情緒が漂うというか、沖縄っぽく見えてしまう。森崎東の新作『ニワトリはハダシだ』でも、原田芳雄の(元)妻を演じた倍賞美津子在日朝鮮人っぽく見えてしまったのを思い出した。
印象としては、崔洋一作品としては前回観た『いつか誰かが殺される』に通じる一貫性はあって、ところどころのカメラワークや構図はだいたい見えてくるものがあった。それと共にモチーフの一貫性もいくつか見られ、あまり物語に絡んでくるとは思えないコンピュータを登場させるのはなぜかと気になってしまった。今回は、モーテルに住まう売春婦の内のひとりが、懐かしのゲーム『ゼビウス』に興じるシーン(画像は出ないが、音で分かる)あったり、子供がおかしなコンピュータらしきものをいじっているシーンがあったりした。崔洋一特集のこれまでの3作で見ると、コンピュータのモチーフは、それに興じる者の疎外を表しているということが言えるかもしれないが、そんな瑣末的な読みはやめておこう。
ともかく、そこまで面白いと思える映画じゃなかったが、崔作品を理解する足しにはなりそうである。次回は水曜日だ。