ビデオで観る大映映画

田中徳三監督『鯨神』と加戸敏監督『怪猫岡崎騒動』を。前者は宇能鴻一郎原作の特撮映画で、勝新も出演している。1962年の作品だから、すでに勝新は『不知火検校』の役柄を経ているわけだ。ぎらぎらしたよそ者を演じる勝新は「鯨神」に果敢に挑み、最後は死んでしまう。この映画自体、田中徳三らしからぬバランスに欠ける内容で、冒頭から何度も何度も村人たちが「鯨神」に挑んでは海の藻屑となってゆく特撮場面が断片的に反復され、ドラマ部分が極端に薄い印象を受けた。力の入った特撮も、今観ると何が何だか分からず迫力に欠ける。残念、見所の少ない映画だった。
後者はもちろん入江たか子主演。これでぼくが観る入江たか子版「怪猫シリーズ」は3本目になる。フィルモグラフィを見ていると、どうも40〜50歳ぐらいで「怪猫シリーズ」をやっているようで、凄まじい女優魂を感じる。58年には映画界を1度去ったらしく、喫茶店経営やホステスなんかもやったらしい。
http://www6.plala.or.jp/guti/cemetery/PERSON/A/irie_t.html
最初に観た『怪猫有馬御殿』の衝撃は忘れられないが、シリーズの後のものはどうやら完璧な形ができてしまっているようで、ただただ入江たか子の形相がひどくなって、また死んで化けるまでに行われる執拗ないじめも過激になってゆくパターンが見られる。シリーズものの常といえばそうだが、『怪猫逢魔が辻』やこの『怪猫岡崎騒動』を観るにつけて、素晴らしく洗練されていた『怪猫有馬御殿』の輝きを再び味わいたいという気持ちが強くなる一方だった。ただし、『岡崎騒動』に出てくるバカ殿のようなどうしようもない殿様には笑いを誘われた。そんな殿様が出てくる一方で、入江たか子にはケレン味たっぷりのいじめと忍耐が描かれているので、そこに生じるギャップがなかなか楽しめた。