メメント…まさか

複雑怪奇に分解された断片を連ねてゆくことで、あまりにシリアスで悲劇的な物語を淡々と語っている本作は、ショーン・ペンのイメージゆえにという理由だけでなくとも『ミスティック・リバー』を思い起こさせるけれど、決定的に何かが異なる。もっとも、あれほどに時間軸を歪めた結果、トラウマティックな物語の「語り難さ」に接近しようとする方法論は理解できても、ぼくの印象までも断片化され散逸してしまうようだった。
むしろその時間軸の分解によって話の流れは早々に見えてしまう。だから、さて、彼(女)らの運命はどうなっていくんだ、というサスペンスにはまったく期待できない。可能なのは、断片化されたイメージ群を、ベニチオ・デル・トロの神がかり的な暗さをありのままに体感することだ。その暗さはベニチオ・デル・トロの芝居だけに起因するのではなくて、この映画のある種の「閉鎖感」にも起因する。断片化された物語が淡々と3人の人物を中心に回転していく様を眺めていると、閉じられた不幸の輪とでも言うべき閉鎖性を感じているのが分かる。手持ちの、時に恣意的なカメラの動きが対象への没入を許さず、自分自身も不幸の輪を回すことに加担させられているような気分になるのであった。