母親の上京

姉の鬱病が転移したとかで調子の悪くなったぼくの母親が、気分転換のために急に1泊2日で上京してくるということになって、今朝東京駅に迎えに行く。寝坊で1時間ほど遅刻してしまった。その後、彼女を連れて恵比寿ガーデンシネマにて『グッバイ、レーニン!』を観る。
政治とか歴史とかにほとんど無知の母でも涙を流すほどに分かりやすくて、なおかつところどころにひねりの効いた良作だった。淀みのない語りは、観客を飽きさせず、時には場内から笑い声が漏れるほどユーモアに溢れていて、サービス精神の旺盛さに感心するほどだ。といっても、例えば『クリムゾン・リバー2』のように観客をなめきった勘違いのサービスとはまったく違っていて、この映画のサービス精神は、観客を心底楽しませるという配慮から、観客の想像力に委ねようとする配慮まで、一定して慎ましくあるのだ。
ニュース映像からの引用らしきものが多く使われるにせよ、重要な場面場面では印象的なカットが記憶に刻み付けられる。反復されるレーニン像は措くとしても、中盤とラスト近くで2度繰り返される3対の壁のイメージが、ベルリンの壁崩壊後に立ち現れる「内なる壁」とその融解を雄弁に伝えてくれようものとして、とても印象的だった。
分かりやすさには不満な部分もある。キューブリックのあざとい引用さえ、登場人物のひとりの分かりやすい解説が加えられ、西側の広告的イメージと共に消費される。一方でナレーション付の導入&結末部分では褪せた8mmフィルムが付け加えられ、情緒を煽り立てようとする。この辺りのあざとさはなくとも、この監督の語りの特徴は生きたように思わないでもない。
まあ何にせよ上映期間が終わるまでに観られて良かった。
続いて六本木ヒルズにて「イリヤエミリア・カバコフ展」「ジュン・グエン=ハツシバ作品」「MoMA展@森美術館」を巡回。2時間弱ぐらいで全部観る。母にはかなり苦痛だったようだ。三層の重層的な空間を展示している「イリヤエミリア・カバコフ展」はなかなか興味深かったが、じっくり観るには時間が短すぎた。コンセプトよりもむしろ個々の写真と古いロシアの詩(展示は英語と和訳だったが…)をじっくり味わう心地よさ。ソ連時代の日常の、まさにそれと分かるものから素朴なものまで、じっくり眺めて滲み出てくるような何か。
MoMA展」はお腹いっぱいという感じ。
ぼくがバイトしているホテルに母親を送って1日終了。どうやらバイトの同僚が気をつかって割引してくれたみたいだったので、岡山から持参してきていた「きびだんご」を1箱渡した。