映画とミステリの接点

知人に勧められていたキャメロン・マケイブの『編集室の床に落ちた顔』という探偵小説(?)を読んだ。1930年代半ばに、筆者が20歳になるかならないかで書かれたものだというが、この小説にはぐっと引き込まれっぱなしだった。さらに、筆者はドイツ生まれなのだが、当時イギリスに移って2年かそこらで喋ることもままならない英語でこれを執筆したという。驚くべきだ。「本格」のルールから見れば怪しい本作は、叙述トリックやらメタ・ミステリっぽいことをやっているのだが、実際にはそんなことほとんど考慮せずに書いたというから、キャメロン・マケイブという人(このペンネームはこの本だけに用いられているようだ)はよく分からないが、そんなことは絶対にないだろうと思わせるほどの巧妙さも窺える。
しかし、この小説はタイトルが示すように映画界(スタジオ)の内幕も扱っていて、主人公は編集の主任であり、(当時の)映画のあり方がこの探偵小説の構造にも大きく絡んでいる。表面的にはそれほどでもない。しかし、たぶんちゃんと調べると見えてくるはずなのだが、探偵モノの映画版における「語り」や映画界で使われるスラングを用いた会話やら、この筆者が意識的にせよ無意識的にせよ、かなりの反映を見て取れるのだ。詳しく解明する知識に乏しいのが悔やまれるが、この小説が面白かったということはこうやって示しておきたいと思った。