そういえば……

スロ屋にいる時に、スーパーテレビ(だと思う)のニューハーフのドキュメンタリーを眺めていて、テレビのこういった特集のスタイルはなぜこうも画一的なのだろうかと思った。この番組は、他の対象を扱ったりしたのを観た限り、時間をかけて取材していてけっこう面白かったりするのに、ニューハーフとなると、ぼくが小さい頃からテレビで観てきたのと同様に同じ切り口である。性転換や戸籍の変更、結婚などの最終目的に向かって……というのは、家族や社会に向けて意識を変えさせるメッセージとなるかもしれないし、それ自体は別に批判的に考えるべきことではないだろう。でも、ああいったテレビのスタイルや切り口自体が、ニューハーフという対象を画一的な枠組みにはめ込んでいるようで違和感がある。
そんなふうに考えるのは、ぼくが実際にニューハーフの人と接してきたりしたからかもしれないが、ニューハーフという対象に限って未だになぜ? と素朴に思う面もある。番組で取り上げられているようなタイプの人は実際にいるけど、内実はもっと多様だろう。ネット上に女装者のHPがたくさん存在しているが、その中には実に広い範囲のセックス/ジェンダーがあるのだし、性同一性障害だけがその要因とは言えるはずもない。フェチ系女装の人には、見た目的にも美しく、エロく、様々な実践でその辺のエロ本やエロサイトを圧倒するクオリティのものもある。それでいて、セックス観は一般的なヘテロセクシャルだったり、マゾヒズムの延長線上の露出願望がホモセクシャルっぽく見えるだけだったり、女装×女装のレズだったり、本当に多様なのである。
何でこういうことに対して声を大にしたいかというと、ぼく自身そうなのだが、小さい頃から日本のマンガやらアニメやらゲームやらにハマって来た人たちの中には、絶対にそういった媒体がセクシャリティに影響を与えているはずで、表面上はソフトなものでも、何か決定的に影響するということがあって、そういったものがニューハーフだけじゃなくても、様々なフェティシズムだったり、様々なエロ嗜好だったりにつながっていると思うからだ。
以前、東浩紀らの網状言論のシンポジウムに行ったとき、永山薫エロマンガの変容みたいな内容でプレゼンをしていて、それに聴き入った覚えがある。昨年の「ユリイカ」でも永山薫師走の翁の『精装追男姐』などを評していたけど、「気持ちいいぼくの身体」としてのフタナリシーメールというのは説得力がある。それまでは、そういったエロマンガのジャンルに対して共感はあってもどういった共感なのか分からず悶々としていた。しかし、先ほど触れたようなフェチ系やコスプレ系の女装者のサイトなど、あるいはニューハーフ、シーメール系エロ本などにも通底することがある身体性というか「身体観」を享受していく内に、少しずつ言葉としての輪郭が現われはじめた。
少女漫画や小説などを読む男には、自らを少女に一体化させることができる/させてしまう人が多いと思うが、それと同じで、エロマンガを読む場合に、凌辱される女に自らを同一化させ興奮するという人もいるだろう。ぼくもそうだ。昔、宮台真司もマゾ的サド*1という言葉でそれを表わしていたけど、こういった身体観の行き着く先にフェチ女装やシーメール化がある、と言えると思う。少なくとも、エロマンガなどにおいてはそうだし、ネット上で見かけるその類いのHPではよく目にする。それに日本の漫画やアニメには無意識的にそういった方向性の刻印がなされたものが多く、影響を受けないはずがないのだ。
例えば、『らんま1/2』は、女らんまがエロい妄想系と無縁であるがゆえに、抑圧されたものの回帰じゃないけど、そこで何かが隠ぺいされているという意識がすり込まれ、後になって覚醒してしまう、というものだと思う。こちらは映画だけど、大林宣彦の『転校生』のソフトなエロさと比べると、その意味で『らんま』の方が影響力が強い。そんな意識下での影響が、魔北葵しのざき嶺エロマンガとの出会いで花開くことになる、というのはぼくだけの話ではないんじゃないか?
……かなり迷走してきた。この手の話を始めるとどうも止まらない。仕事中だというのに。最近、知り合いの女性と飲み会で個人的な妄想について話したり、ちょっと衝撃的だったとあるHPを見つけたりしたのがあって、また仕事に慣れた余裕もあって、いろいろと考えていたのだ。その衝撃的なHPなのだが、ぼくがもっとも影響を受けたであろうしのざき嶺の『BLUE HEAVEN』を地で生きるような体験を綴っていて、おそらく実話だと思うけど、そんな真偽はどうでもよく、エロいと思うと同時にとてつもなく泣きたい気持ちにさせられた。悲しいというのではなく、嬉しいというのでもなく、そういった存在への無条件の肯定感とでもいうもの。まるでトッド・ソロンズの映画の感動のような、対象への肯定の気分。それはとにかく衝撃だったのだ。
もし興味がある人がいたらのぞいてもらいたいが、その人の迷惑になってもいけないので、ささやかにリンクさせてもらいます。この日記は今のところアクセスも少ないので、あまり心配ないですが。↑に何か感じ入るものがあれば、たぶん共感できると思います。

*1:見た目はサディスティックだが、攻められる相手に感情移入することでマゾ的興奮を覚える……みたいな意味だったと思う。