意外な展開

  • フォーガットン(監督:ジョセフ・ルーベン、脚本:ジェラルド・ディペゴ)

この映画にはまったく意表をつかれてしまった。時間つぶしのために観るつもりだったのだが、まさかそう来るとは……。
いわゆる「記憶モノ」と思い込んで、『アイデンティティー』(ジェームズ・マンゴールドのやつ)や最近なら『ハイド・アンド・シーク』や『バタフライ・エフェクト』みたいな展開が待っているのかと思わせながら、始まってそこそこの時間でそれが覆される。思えば、あの予告編は巧妙な罠だったわけだ。しかも、ところどころの暴力的な衝撃はちょっとした見所である。
ジュリアン・ムーア演じる息子を失い悲観に暮れた母と同じく娘を失い自暴自棄な中年男が追われる身になり、逃避行を始めるのだが、道に突っ立った男*1をはね飛ばしたり、追手に車をぶつけられたりするのだが、こういった撮り方の衝撃は笑えるほど乱暴で、その後の展開もさらに演出上の暴力性は加速する。かといって、はめを外すほどにはなっておらず、ぎりぎりのところでシリアスなドラマを支えていて、こういった内容を考慮すると奇跡的に楽しめるのはすごいことだ。
また、ジュリアン・ムーアが体現する母の情念は凄まじく、映画前半でそれが狂気として描かれているということも重なるのだが、これほど何の取り柄もなく、敵に対して無力な女と男が想像を絶する相手に打ち勝つのはそれほどの狂気なのだという説得力が成立している。「拉致」というキーワードからこれを政治的に読むのも可能ではあるが、映画内容を考慮するとそれが愚直な読みになるしかないのは明らかだ。けれど、あの狂気、情念の破壊力は、そういった瑣末な要素を拭い去っても十分に破壊力があるのは確かで、この映画をその一点で輝けるものにしているのだ。
笑いながらも感動できる恐ろしい映画。もうネット上ではネタバレが氾濫しているだろうが、ぜひ一見の価値がある作品だ。

*1:ただの男ではないのだが……