ブタども!

  • ザ・ショック(監督:マリオ・バーバ)

ホラー映画は好きだけど、今までマリオ・バーバ作品を観たことがなかった。


黒沢清セレクションのDVD-BOXを注文したついでにちゃんと観てみようと思ったのだが、さすがイタリアン・ホラー。撮影、演出がすごい。
ダリオ・アルジェントにも言えることだが、イタリアン・ホラーの怖さとは、ショッカー・ホラーよりもファンダメンタル・ホラーなのであるが、そのように断定できない、ある種の「美」の恐怖とでも言える何ものかが映画を包み込んでいる。それは恐怖という言葉ではうまく表わせない狂気じみたものなのであるが、画面の背後に徹底した意図の存在は読み取れ、そこに遊戯とも思える趣向が凝らされていて面白いけれど、あまりに徹底されるゆえに総体として狂気じみたものに映るのである。
殊に、撮影畑出身のマリオ・バーバにあっては*1、カット割り、ライティング、人物配置などによって独自の世界を形成していて、細部の細部にまで行き届いた意図を感じさせる。
中心となる3人の登場人物(父、母、息子)。麻薬中毒の果てに死亡した元夫。再婚したパイロットの夫。精神病院から退院した妻。まるで何かに憑依されたかのような息子。そして舞台となる家。映画は妻の視点寄りで描かれているけれど、その妻の精神状態が疑わしく、また息子や夫の身振り口振りも歪んでいて、それが正気か狂気か単なるフリなのかが判然とせず、それらの総和としての混沌が映画を包み込んでいる。
息子が夫婦の写真から父親の首を挟みで切り抜くカットの後に、ちょうど重なる位置に父の首を据えたと思いきや、その後、夫婦が寝室にいるシーンで、夫が妻の飲む水に何やら薬を盛るなど、犯人探しは絶えず横にずらされ、挙句に、闇からナイフがそれ自身で襲いかかってきて、下着をエロティックに切り裂く辺りの演出は圧巻である。また、そういったシーンに流れる音楽もすごいことになっている。まして最近の大衆的なホラー映画にありがちな友情や愛による団結や結束や協力がまったく介在しないために、狂気によって露呈させられた「世界」の手触りが体感できるのだろう。
これは他の作品もDVDを買うしかない。

*1:『ザ・ショック』しか観ていないのに偉そうなことを言える身分ではないけど、直感で。