アイロニカルな復讐劇

ハードな夜勤のおかげで読書時間が激減した。電車の通勤時間はすべて貴重な睡眠に費やすために、唯一可能なのはトイレ読書のみとなってしまった。そういうわけで、宮台×北田の『限界の思考』を買ってから読み切るのに1ヶ月ぐらいかかってしまったのだが、アイロニーアイロニーと吹き込まれたにもかかわらず、自分自身の今の生活を振り返ると、あえてやり始めた肉体労働が予想よりハードなために、他のことが一切できないという皮肉に陥ってしまっていて、どうにもやりきれない日々が続いている。
時間を割いて映画を観に行こうと思っても、風呂と睡眠を身体が求めてしまうゆえに、なかなか実践できない。しかし今夜ようやく、久しぶりの映画館へ。

復讐者に憐れみを』と『オールド・ボーイ』を経て続くパク・チャヌクの復讐三部作の3作目。ありそうもない話を時制を入り乱れさせつつ劇的に描くその手口はこの監督の得意技なのだろう。今回もそれは健在というかそれは過剰なほどで、かなり好き嫌いが分かれそうだ。ぼくはどちらかというと好きだ。『親切なクムジャさん』でのその劇的語り口は特に前半、笑えるほどに露骨で、次はどうくる?といった感じで楽しませてくれる。
この映画は復讐劇で、悲劇的だが笑えるのだ。そして、イ・ヨンエ演じるクムジャさんにどのような「救済」が訪れるのか、その点においても、この映画をアイロニカルな復讐劇と呼んでよいだろう。そういえば余談だが、『オールド・ボーイ』の時にパク・チャヌクと対談した宮台真司が絶賛していたのも、アイロニーという点においてつながりがあるのかもしれない。どちらかというと、『オールド・ボーイ』は過剰ではあるがベタさの方が強調されていたし、受け取る側もベタに悲劇的カタルシスを受け取る向きが顕著だったように思うが、『親切なクムジャさん』はそういった点ではかなり異なっている。
本当はいろいろとそれについて書きたいところだが、生活の都合でそうもいかない身なので、この辺にしておこう。特にラストの「復讐会議」の場面以降の展開と演出には言葉にし難いすごいものを感じた。必見である。
早く12月が終わってくれることを願う。夜勤は12月いっぱいという契約なのだ。