かわいさをめぐって

四方田犬彦の『「かわいい」論』を読んで、この題材の面白さに目を開かれた。新書ということもあって、確かに十分な考察はなされていないけど、「かわいさ」ということへの自分たちの意識を考えてみるのは面白い。
そういえば先週のある日、昼過ぎにテレビを付けて在宅バイトをやっていたら、何かのドラマで阿部寛が出ているようだったので、昼ドラにしては豪華だなと思いつつ、間近に迫った新生『北斗の拳』のケンシロウを見ようと画面を眺めたら、後ろ姿の女性が遠目に映っていて、なんとなく永作博美っぽいなと思ったら数十秒後、本当に永作博美だったので興奮した、ということがあった。後でそのドラマは数年前の『週末婚』の再放送だったと判明した。面白い。まとめての放送だったらしく、数日間しかやっていないようだったので、すぐに全巻レンタルしてきて一気に見てしまった。
松下由樹永作博美、そして川原亜矢子における「かわいさ」の描かれ方が滑稽なまでに露骨で面白い。松下由樹の昼ドラ的な怨念は措くとしても、川原亜矢子の役に与えられた過剰さは、明らかにこの人物をかわいく思えないようにしている。第1話では、いきなり永作博美がかなり大胆なヌードでシャワーを浴びるシーンから沢村一樹とのベッドシーンへと描かれる*1にもかかわらず、当たり前のように永作博美がかわいいと思えるようになっている。たぶん多くの人がそう思うはず。
そして、このドラマを観てふと連想してしまったのが、個人的に大好きなジェニファー・ジェイソン・リーブリジット・フォンダが共演している『ルームメイト』である。この映画での2人の描かれ方を見ると、『週末婚』とは逆であったことが分かる。これはスリラー映画だし、おそらくブリジット・フォンダに感情移入しやすいようにつくられているのだろう。「おそらく」というのは、ぼく自身はジェニファー・ジェイソン・リーに感情移入してしまい、この映画をきっかに彼女のファンになったからだ。
今でもよく覚えているのだが、当時は中学生で地元で手に入る映画関係の雑誌といえば、『ビデオでーた』と『ロードショー』ぐらいで、いつも隅々まで読んでいて、ある時の読者投書欄に、『ルームメイト』のジェニファー・ジェイソン・リーについて書かれているものがあった。女性からの投稿で、彼女はブリジット・フォンダの演じる美しい女性に憧れる陰湿なジェニファー・ジェイソン・リーをかわいらしくて好きだと書いていたのだ。同じように思う人がいるんだな、と嬉しく思った。
その後もジェニファー・ジェイソン・リーの出演作を追っていくうち、アバズレなどのあまりに報われない役柄ばかりでますます彼女への愛を深めてしまうはめになったが、このことを考えてみても「かわいさ」に対する一般的な日本人とアメリカ人の差異が見られるだろうし、他の映画などから考えてみると、アメリカにおいても日本的な「かわいさ」を肯定する場合も見られる。前述の四方田犬彦の著作では、そのような「かわいさ」の起源を平安時代などにさかのぼって検証していたが、その中でも触れられているように日本人だけの感覚ではないことは明らかである。
ラムちゃんキューティーハニー*2があれほど魅力的に思えるのも、当たり前のように感じてはいたが、そう思えない人もいるはずだし、ちょっと考えてみる価値がありそうだ。あまりに身近な感覚すぎて、ついついこれまで見過ごしてしまっていた。
永作博美と現在の「かわいさ」を体現する宮崎あおいが出演している映画『好きだ、』でも観に行って考えてみよう。続きはそれから。

*1:余談だが、その永作博美の手から松下由樹の手へと移るカットとか、このドラマの露骨なこだわりはかなり凄みがある。

*2:パチンコのCRキューティーハニーに続いて、スロットでも最近キューティーハニーが登場した。