出たとこ勝負がおれの本性

池袋新文芸座にて。
ちょっとした腫瘍ができて手術を受けた後だったが、スクリーンでの勝新を見逃すわけにはいかない。12時台の回、座席は7割ぐらい埋まっていた。
三船敏郎が演じる用心棒への意味深な依頼から始まるのを観て、『子連れ狼』っぽい展開をイメージしたが、意外にも物語の大半は「みの屋」という峠の茶屋の中で展開されることとなる。そこで出くわす人物たち。それぞれが裏に何かを背負っているかのようであり、まるでミステリの事件前といった感じだ。ただし、用心棒は探偵ではない。何が起こるかはっきりしないまま、漠然とした予感の中で流れに身を任せる様が観ていて心地よい。
そのどっちつかずの状況はやがてはっきりしてくるのだが、その後で面白くなってくるのはそれぞれの人物の描写である。勝新が演じている医者崩れの正体が明かされる辺りから、状況の変化とともに人物の性格がはっきり浮かび上がってくる。ただ、用心棒だけが性格を保留している。それを見透し、勝新三船敏郎を呼び出す夜明けのシーンが良い。
面白い。何が面白いのか決定的なことを言えないのだが、やっぱり面白い。スター出演者の存在はすばらしいがそれだけでもない。三船敏郎石原裕次郎のあの稚拙な格闘になぜ惹かれるのか? ラスト、勝新をとらえようとする役人たちとの立ち回りのしつこさ。どうしても目が離せない。中村錦之助の鬱陶しい芝居が最後にあのような変化を生むというささやかな感動。そして、その後の三船敏郎の動作。
4月からの新文芸座は、現代日本映画の特集へと移るみたいだ。