30年、300本のキャリアの持ち主

女が映画を作るとき (平凡社新書)

女が映画を作るとき (平凡社新書)

先日のピンク大賞の時に販売されていて初めてこの本が出版されていることに気づいたのだが、浜野佐知という名前を見て迷わず購入した。
数年前のある日、特にプログラムなど気にせず3本立てのピンク映画を観に行ったことがあった。ピンク映画の大半であるつまらないものを1本観た後に続いて、ピンクとしてはめずらしい獣姦モノの2本目が流れ始めた。AVのようなキワモノだろうなと思いながら見ていると、どうやら様子が違う。家庭の中で威厳を振りかざした夫、威圧される妻。女は飼い犬に慰めてもらうようになる。細部は忘れてしまったが、その描き方が感情移入を誘うものであり、ラストは意志に満ちた女の前向きな姿を映し出していた。犬との絡みがあるとはいえ、まったくキワモノの印象は受けなかった。気になって監督名を覚えておこうと思った。浜野佐知という名前だった。男か女かはっきり分からず、男の監督だったらめずらしい作風だなとぐらいに思って、ネットで調べると女の監督であるということが分かった。
およそ300本のピンク映画を監督しているというのに、一般的な知名度は明らかにそれに比例していない。本書の冒頭で語られているように、日本において最も多くの劇映画を監督した女性は田中絹代の6本というのが公式的な見解になっているのだ。その浜野佐知という希有な存在の映画人生、とりわけ近年の一般映画2本をめぐるエピソードや女性として映画界にかかわってきたことの困難が綴られている。様々な人間との出会い、特に女性の連帯の感動的なエピソードは面白いし、浜野佐知という人間は特に興味深い。この本を読むとその一般映画『第七官界彷徨尾崎翠を探して』と『百合祭』を観たくてたまらなくなる。次に上映会があったら絶対観に行かなければ。
いくつかのエピソードには「男の世界」としての映画界も綴られている。セクハラ天国であるかのような当時の映画界で女性ひとりが生きて行くことはこれほどに過酷だったのか……と思うぐらいのエピソードもあるが、中には性別など関係なく、あるいは男女の違いを尊重して接してくれた人もいたという。最初に登場するのは若松プロで出会う大和屋竺だった。大和屋竺の助言で若松孝二がようやく彼女を助監督に起用(しかし、結局ある出来事をきっかに助監督は1日で降板。そして若松プロもやめたのだった。)することを決意したのだった。深作欣二大島渚の名前も名前も出てくる。特に、深作欣二浜野佐知に興味をもち、ドキュメンタリーを撮ろうとしていたらしい。また、深作夫人である中原早苗は『百合祭』に出演しているらしい。