蛇女〜イカ地獄〜おじさん天国

  • すけべ母娘 どっちも好きもの(監督:深町章、出演:青井みづき、杉原みさお、扇まやetc)
  • 性体験実話 淫女たちの告白(監督:新田栄、出演:風見怜香、麻田めぐみ、長谷川いづみetc)
  • 絶倫絶女(監督:いまおかしんじ、脚本:守屋文雄、撮影:鈴木一博、出演:藍山みなみ平沢里菜子、下元史郎、吉岡睦雄etc)

新宿国際名画座にて本日封切。
前者2作については取り立てて書くことはない。強いて挙げれば『性体験実話』のセックスシーンはこの映画の3分の2以上を占めるほど長かったということぐらいか。クオリティでは出来の良いAVに負けてしまう。
満を持していまおかしんじの新作である。『絶倫絶女』*1のポスターは平沢里菜子が大々的に載っているため、昨年の『援助交際物語 したがるオンナたち』*2のふてくされた感じに優しさが滲む愛すべき女から、いったいどんな姿を見せてくれるのだろうと期待していたら、なかなか出てこない。端役だった。もちろん、それでも光る芝居を見せてはくれた。おじさんに「先輩」と呼ばれ、無理矢理されるキスの時の表情、あるいはおじさんに後ろから突かれて激しくあえぎながら目の前で寝ている男とキスする動作。印象的である。しかし、本作では藍山みなみの存在感がさらに秀でていた。同じ工場で働く2人の男と関係をもつ彼女は素朴に可愛らしい。少し憂えた表情と濡れ場の表情が素晴らしい。
めずらしく本作はいまおかしんじによる脚本ではない。とはいえ、日常に異界が侵入してきてそれでも日常が続くといった感触はいまおか的な物語である。しかし、異界からの侵犯の描写が少々複雑である。『たまもの』での喋るボーリング玉や『かえるのうた』でのかえるの着ぐるみのような意匠として、とりあえずイカが登場する。何匹も登場する。加えて、突然やってくるおじさん。ピンクに塗りたくった自転車でおじさんはやってくる。おじさんは変な夢にうなされるからと言って眠らない。眠らないために大量のオロナミンCを飲み続ける。おじさんはすぐに勃起する。眠りを我慢したら勃起するらしい。勃起したら女に手を出さずにいられない。抱いた女の身体に赤いマジックで自分の名前を書く。「高山たかし」。
そんなわけの分からないおじさん。いきなりやってきたおじさんを疎ましく感じつつも憎んではいない甥っ子は、イカに取り憑かれてはいるが平坦な日常を送っている。いつものいまおかしんじ的な主人公である。日常に暴力やセックスが挿入されるが、決して日常は壊れない。男は彼女とセックスしている時に、彼女の背中に「高山たかし」の赤いマジックの文字を見つける。マー君(彼女は男をそう呼ぶ……名前はハルオだったように思うがマー君と聞こえた)に怒られたといって、浴槽でおじさんに赤い文字を消してもらっている女。薄くなった文字を指でなぞるおじさん=高山たかし。鏡越しにおじさんがいつも見る夢の話をする。このサスペンス風のカットの後に藍山みなみの言う「コンビニ行こ」という台詞が良い。最初の方にあった甥がおじさんに「コンビニ行ってきたら」という台詞に対応している。最初の時、睡魔の恐怖に脅えているおじさんはコンビニ行かなかったけど、この場面ではコンビニ行くわけである。日常の平坦さの中で、コンビニが機能から離れた「コンビニ」という架空の場所として描かれたような心地良さが垣間見えた。
そしてそのコンビニは異界へとつながる。蛇女(と形容しておこう)とつながるおじさん。異種混交*3が神の前で行われ……その後の展開は……文字で表すのは野暮だろう。先月のピンク大賞で伊藤猛が監督からの扱われ方がどんどんひどくなると言っていたが、それがうかがえるような役で登場。異界はイカに導かれ、魔界へ。汚れ具合も凄まじい。
だからこそ、その後に訪れる淡い光がまぶしく見える。日常は日常でも何か違う。朝日の中、車の中でのセックスシーンは素晴らしい。おじさんのオロナミンC(赤いマジックのメッセージ入り)、手持ちカメラでの草野球の争い。最後の抑制された演出の中に「天国」は出現するのだった。
おじさんが冷蔵庫を開けるとたくさんのイカ、という場面でおじさんのリアクションを映さないこと、おじさんのオロナミンCを映すところで、男が瓶を手に取ってからメッセージのアップが映されるのではなく、まず瓶のメッセージがとらえられ、やがてやってきた男が瓶を見つけて手に取るのをワンカットで流す。こういった抑制が全体に行き渡っているのは重要だろう。一定のリズムをつくると共に、日常=異界の論理を支えるのだ。そこではそういったコミュニケーション=演出がリアリティそのものになっている。……という意味でもひとつひとつのカットや場面、役者の動きや仕草や表情や台詞がすべて印象的なのだが、それらをすべて綴るわけにもいかないだろう。映画についてはこの辺で。コンビニ行こ。

*1:原題は『おじさん天国』。

*2:一般公開題は『かえるのうた』。

*3:他の場面でもこれは重要だ。イカの触手、毒蜘蛛との異種混交。