「そんなことで死に花が咲くとでも思ってるんですか?」

池袋新文芸座にて。脇役特集は佐々木孝丸。『博奕打ち 総長賭博』は超傑作!
少し時間がとれたので今のうちに追記。『日本暴力団 組長』は深作にしては珍しく冴えない内容である。テンポもあまりよくないし、脚本が微妙なんだろうか……鶴田浩二の役にしてもバカにしか見えない。映画の前半で死ぬ菅原文太の印象が一番良いぐらいだ。本来なら全体の調和を乱してしまうと思われる若山富三郎のやり過ぎな芝居も、この映画のまずさを察知して独自に観客を楽しませてくれたのかと勘ぐってしまう。それゆえに、佐々木孝丸の静かな迫力が生きてくるのかもしれない。
しかし、最初に『〜組長』の方を観ていたおかげで、メインキャストがある程度重なっている『博奕打ち 総長賭博』がより輝くのだ。鹿島茂はそのようなプログラムピクチャー的な楽しみ方にも配慮してくれている。
ジャンルとしての任侠映画。『〜総長賭博』は完璧な構成、キャスティング、芝居によって、このジャンルを極めている。鶴田浩二を中心として、人と人との情を交えた関係が緊密に張り巡らされ、金子信雄の小悪ぶりが裏で糸を引き、それぞれの分かっていても止められない運命を走らせる。これでもかこれでもかと降りかかって来る運命の洪水、『〜組長』ではバカらしく思えて来る展開も、『〜総長賭博』においてはなぜか不自然に見えない。若山富三郎の演じる男の設定にしても、兄弟の盃を交わした鶴田浩二との関係の深みがすごい。妻は鶴田浩二の妹である藤純子だし、自分の子分にしても、自らが刑務所に入っている間ずっと鶴田浩二の一家の世話になっていたのだ。
そのような緊密な設定、関係性の下敷きがありつつ、素晴らしい芝居を見せる役者たち。面白くないはずがない。鶴田浩二の妻、中井組の姐さんを務めていた桜町弘子がふだんは慎ましさを見せつつも、自殺に至るまでの場面で凄みと女の情感を同時に体現する場面には涙が溢れた。彼女の「そんなことで死に花が咲くとでも思ってるんですか?」という台詞は最高だった。映画は最後までまったく緊張感を緩めず、ラストまで圧倒的な情感のほとばしりを見せてくれる。兄弟の盃を交わした男を自らの手で殺した鶴田浩二は妹・藤純子に「人殺し」と言われ、「人殺し」として小悪党・金子信雄に止めをさす。金子信雄の死にっぷりもなかなかのもの。三島由紀夫が絶賛したのも分かる傑作である。