アングラ衝動鎮魂歌

「天王洲猥談」のDVDを観ながら書いているというのに未だ冷めやらぬこの気分。26日、DX歌舞伎町、レズビアンショー初日。魂を揺さぶられる衝撃的な舞台だった。レズビアンショーやSMショー中心に、意識してストリップ小屋に通い始めてもう1年以上になる。そのきっかけになった、生涯でも忘れることのできないステージの衝撃を上回る体験だった。
出演者と演目は次の通り。

  • オープニング
  • 花洲×しの
  • 京×夏川明
  • ゆの×内山沙千佳
  • フィナーレ
  • エンディング

演目の間にはポラロイド撮影タイム。出演者は少なめだが濃密な時間が流れる。1日3ステージのうち、ぼくが観たのは26日の2回目、3回目。(27日も最後だけちょっと観た。)コンビによっては奇数回と偶数回で演目が異なる。
花洲嬢&しの嬢の3回目は着物姿の花洲嬢登場から始まる。紙風船をポンポンとはじいて、時おりお客さんにもトスを出す。しばらくしてしの嬢が同じく着物姿で登場し、「♪うそつき…」とチャーミングな演歌が流れ、指先中心の舞踊を始めると、強い磁場が発生したかのようにぐいぐい引き込まれる。ぼくはこういった雰囲気が無条件に好きなのだ。岐阜で美的SMの公演を観たときの一条さゆりさんのステージには本当に魅了された。ちょうど今、小沢昭一の『本邦ストリップ考』という本が出ていたので読んでいるところなのだが、戦後ぐらいからのストリップ史をたどり、様々なエピソードが語られるのを追体験し、かつてのストリップと今のストリップの狭間で心地良いトリップ感覚に浸る。
京嬢&夏川嬢の『不思議の国のアリス』の翻案ヴァージョンは可愛くてエロくて、メルヘンチックな感じも衣装やら音楽やら立ち振る舞いやらに世界観として強固に反映されていて、じっくり楽しめる内容。夢のごとき性体験をする京嬢アリスが最後に観客に向って指先を口にあてて秘密のお願いをするという可愛らしさで締められるとくれば、ああ良い時間を過ごせたなと薄暗い地下のストリップ小屋にて思ったりしてしまう。夏川嬢の貫禄に魅了された。「歌ベッド」も好きだ。
ゆの嬢&沙千佳嬢は2回目、コミカルな演目を提示してきた。部屋でくつろぐゆの嬢がおもむろにオナニーをはじめたところ、ピンポーンと妨げのチャイムが鳴り、『ドラゴンボール』のチチ(子供ヴァージョン)の衣装みたいな宇宙人沙千佳嬢が訪問してくるというトンチキステージ。二人の脱力な掛け合いがまったり心地良く、また『撲殺天使ドクロちゃん』的なSF設定でもあるから、違和感もなく楽しめる。
フィナーレはチームショー、総出演者での「真夏の世の夢」。紅薔薇座のハーレムベッドを思わせる豪華な総合的ステージであり、たっぷり美しい裸体を堪能できる。エスニックなコンセプトが妙に健康的で淫靡なエロといった感じはない。
初日の3回目のステージ。最後の演目は「ゆの×内山沙千佳」だった。2回目でコミカルな内容だったため、いつも奇数回と偶数回で演目を変えるこのコンビだとシリアスな内容が予想された。ぼくは彼女らのシリアス演目が大好きなのだ。前日の疲れやおよそ6時間の鑑賞に少しだれてしまっていた気分をリセット。幕間の舞台準備を眺める。シンプルな舞台。今回はどんなステージなんだろうか? 冒頭に、そして以前のエントリにも書いたように、かつての衝撃的体験が忘れられず、彼女らのステージをなるべく欠かさず観てきて、これまでもいろいろな希有な体験をさせてもらった。コミカル路線、シリアス路線、どちらも他のメディアでは味わえない、個性的な舞台ばかりで、しかもエロくて可愛くて面白くて時に胸をしめつけられるほど哀しいのだから、見逃すわけにいかないのだ。そして……再び打たれた。すごかった。涙が流れた。呆然とした。そんなステージの記憶を留めるため、詳細を書かねばならないと思い立ったのだ。

  • ゆの×内山沙千佳

薄暗い舞台に用意されているのは、盆の上に何かを包んだらしき布と、梁から垂らされたSM用の金具に取り付けられた紫の花。幕が開く。町娘といった感じの赤い着物をラフに着たゆの嬢が登場。ゆっくりと盆まで歩み、吊るされた紫の花を手に取る。それを髪に結わえる。突然、うめき声をあげて苦しみ悶える。しゃがみ込んで頭を抱えて煩悶する。
♪あたしは アバズレ メス豚で〜す すぐさま おまたを おっぴろげ〜る
ミドリの「あばずれ」が絶妙に鳴り響き、苦渋のオナニーが繰り広げられる。唖然。もうこの時点で一気に引き込まれる。「鏡」の時も一緒だった。せつないオナニーと気分に合った絶妙な曲。その構成の上手さは彼女らの舞台のゆえんである。ようやくその淫乱花を外したゆの嬢は元の場所にそれを戻し、禁断に触れてしまったおののきと共にしずしずと舞台を去ってゆく。入れ替わりに沙千佳嬢が登場。白い着物姿に傘をさし、とても優雅な佇まい。彼女は傘が似合う。レースクィーンの時もそうだった。そして、反復。やはり花を手に取る。彼女はそれを口にくわえる。反復とずれ。レズショーの場合、基本的にいくつかの要素を交互に反復することにより構成されているように思う。彼女らのように絶妙なコンビだと、それぞれの特質が自然に反復の「ずれ」として現れるから、それぞれの存在や振る舞いの印象がより強くなる。
盆の上で紫の花をくわえ、やがて沙千佳嬢は淫靡に狂乱する。その刹那、閉じていた傘をバッと開き、髪を振り乱し、立ち上がる。ナンバーガール鉄風 鋭くなって」が響き、ブラックライトの妖艶な照明を浴びる沙千佳さんはもうどうしようもなくかっこいい。すでに冷静に目の前の舞台をあれこれ考えながら観る余裕などなかった。すべてを浴びるように体感していた。
再びゆの嬢登場。狂乱の沙千佳嬢に対峙。当然、呑み込まれる。そういう段取りというんじゃなくて、もうそうなるしかないのだ。そんな空気が完全に舞台上に出来上がっている。組み伏せられ、執拗な攻めを受けるゆの嬢。盆の中央で上半身をはだけ、腰を据えたまま淫らに攻める沙千佳嬢はアングラ的な「重さ」とでも表現しようか……強い重力を抱え込んでいるかのようで、そんな彼女に攻めれるゆの嬢をも呑み込んでしまいそうだ。アナル、乳首に針貫通、双頭ディルド。感情というよりそれ以上に互いの存在がぶつかりあうかのような絡み。いつもそうだ。彼女らの絡みには心を揺さぶられる。時に悲哀だったり淋しさだったり情愛だったり、存在まるごとの赤裸々な絡み。
ようやく攻めから解放されたゆの嬢は沙千佳嬢の口から花を奪い、逆に自分がくわえる。ここでも反復はずれ、過剰に増幅される。狂気というよりは思いを爆発させるかのようなゆの嬢の攻めを今度は沙千佳嬢が受けとめる。ゆの嬢の手が首にかかる。手に力が込められる。沙千佳嬢の動きが止まる。そして……
音楽と照明が変わる。花の魔から放たれたゆの嬢が目前の動かなくなった沙千佳嬢を揺さぶって、とりかえしのつかない事態に泣き崩れるあたりで黄と白の淡い照明が彼女らを包み、ミドリの「POP」の冒頭のアイロニカルな詩がかぶさると、そこに奇跡といってもいい舞台空間が出現する。涙が落ちた。休日にストリップ小屋でレズビアンショーを観ているという意識はその瞬間これっぽっちもなかったと思う。ただただ感動していた。もう力のない沙千佳嬢の手をとり、それを自分の大事なところにあてて、それでもつながりを結ぼうとあえぐゆの嬢。その哀しく切なくも愛らしい交わりを終えて裸体が交錯したところで暗転。拍手喝采! 日曜日の22時過ぎ。見知らぬ他の観客とそんな空気を共有した感じが拍手の後の静けさの中に生じたような気がした。生の舞台ならではの余韻。
当分はこの素晴らしい体験を頭の中で反復しよう。そして今後もさらに彼女らの活躍に期待しよう。日常の些細なことはすべてこの舞台の前に一掃されてしまった。ますますストリップ通いはやめられない。