田中登映画の「許し」

まだ未見だった田中登監督の『女【おんな】教師』を見る。主演は永島暎子。故人古尾谷雅人(この時の名前は古尾谷康雅)の確かデビュー作だったと思う。腐敗した教育システムを、強姦をめぐる騒動と絡ませて描いているのだが、やはり田中登の演出が冴え渡っている。ところどころ牧歌的なリリシズムに流される感もないではなく、例えば岩井俊二の『リリィ・シュシュのすべて』なんかに比べると、そこまで身に迫ってくる切実さもない。それでも、学校の閉鎖感とかロケーションが喚起するものとか、ひとつの世界観にぼくたちを誘う技量は素晴らしいのだ。
『人妻集団暴行致死事件』の古尾谷さんもとてもみずみずしくて良かった。ぼくは個人的にこっちの映画のほうが好きだ。こちらも故人となった室田日出男ともども素晴らしい。古尾谷さんはまるでテレンス・マリックの『地獄の逃避行』におけるマーティン・シーンのようで、不器用で純粋な青年を演じている。室田さんは深作欣二映画のあらくれ者とはほど遠いが、魅力的で豪快で存在感のある田舎者を演じている。ぼくが初めて室田日出男を意識したのは、村川透監督、松田優作主演の『野獣死すべし』の刑事役だった。あの映画では鹿賀丈史のほうが印象的だったが…『人妻集団暴行致死事件』の室田日出男は、彼の遺作となった『鏡の女たち』(吉田喜重監督)の老人役と通じて、何かすべてを許してくれるような人間だった。そして、田中登のロマンポルノでは「許し」という主題が切実に描かれているのである。(といっても、『天使のはらわた・名美』や『実録阿倍定』や『秘【まるひ】色情めす市場』は違った文脈で語るべきものだろう。)