寺島しのぶに注目

BOX東中野改めポレポレ東中野荒戸源次郎監督『赤目四十八瀧心中未遂』を観てきた。ただその雰囲気に惚れ惚れするような映画だった。上映時間は2時間半を超えていてけっこう長いけれど、むしろ長さ自体が心地よいと感じられた。台詞も少なく、物語の起伏もほとんどない「静かな」映画なので、舞台が尼崎とあっても雑多な描写などは抑制されており、おかしな人物のユーモラスな描写程度に留まっている。幻想的な音楽も加わって白昼夢のような世界が現前しているのだ。
大楠道代内田裕也などで固めた役者陣は演技よりも実在でアピールしていて、喫茶店でワンカップ酒を飲む内田裕也の姿などはもはやこの世のものとは思えない。そして、主演の大西滝次郎は大抜擢だ。演技経験がないということがまったく欠点になっておらず、役柄にぴったりの実在感を披露している。その相手をするヒロイン役は寺島しのぶだ。歌舞伎界に育ったことも影響しているのか、東京国際映画祭の『ヴァイブレータ』でぼくも虜になってしまったあの素晴らしい佇まいにまたしてもやられてしまった。視線、表情、動き、声…どれもが映画のあり方に的確で、映画女優としての実在感を際立たせている。これからは寺島しのぶがますます輝き始めるだろう。麻生久美子など軽く凌駕するに違いない。
ファザーファッカー』に続く監督第2作とはいえ、鈴木清順や坂本順治のプロデューサーとして確かな手腕を潜伏させてきた荒戸源次郎は、やはり期待を裏切らない素晴らしい監督だったのだ。丹念に時間をかけて作り上げた『赤目四十八瀧心中未遂』はその事実をいとも簡単に証明してくれたのである。