円月殺法VS水鴎流斬馬刀

ビデオ鑑賞の1日。オールナイトの後なので起きたのが昼過ぎだったが…。田中徳三監督、市川雷蔵主演『眠狂四郎殺法帖』を初めて観る。穏やかな時代劇。市川雷蔵主演のせいか、あるいは時代(1963年)のせいか、全体的にハイ・キーなので、物語の暗さ(特に、ラストの眠狂四郎の嘆きの台詞に集約される)とは裏腹な調子を与えている。
中村玉緒の悲劇的な役柄と一見お気楽に見える市川雷蔵の取り合わせが、勝新太郎主演の『秦・始皇帝』でのカップリングを思わせる。しかし、やっぱり中村玉緒市川雷蔵の組み合わせは整い過ぎていて面白くない。玉緒さんは勝新との取り合わせでこそ生きてくる。(もちろん個人的な好みだが…)例えば、『不知火検校』のレイプシーンなんか、悪徳坊主を演じる勝新尊い身分の中村玉緒をいたぶっていて、それこそ涎モノのシーンだけど、トークショー*1で裏話を聞くと、勝新の坊主頭のさわり心地が可笑しくて笑いを堪えきれなかった演技(?)を、森一生監督がオッケーを出して絶妙な出来具合になったのだと…そんなエピソードを聞いて、二重に楽しめるのが勝新−玉緒の組み合わせなのである。
で、『眠狂四郎殺法帖』なのだけど、殺陣はまあまあ。敵役で登場するのは少林寺拳法の使い手陳孫。演じるのは城健三郎(若山富三郎)。最初、ロングショットで撮られている時は、声からしてもしや勝新が出ているのか…と見紛うほど似ている。あくまで素手で戦おうとするこの坊さんに違和感がないわけではないが、強引に説得力を持たせるのは若山富三郎の実力か。
眠狂四郎円月殺法は、例えば『子連れ狼 親の心子の心』に登場する狐塚円記の邪険に宿る「炎」のようなもので、相手の目を惑わせ集中力を乱れさせる催眠効果を狙ったものだろう。しかし、それよりも市川雷蔵にぴったりしている。早くて複雑な殺陣よりも、姿勢を乱さず華麗に舞う殺陣が似合う。昨夜は久しぶりの「座頭市」に興奮したが、あれを雷蔵がやったところで面白くなるはずもない。ちょっと思いついたが、浅野忠信の殺陣も姿勢が良いし、市川雷蔵に通じるものがあるかもしれない。
続けて観たのは『子連れ狼 死に風に向う乳母車』。これで若山富三郎版「子連れ狼」シリーズを制覇。ずっと探していたんだけど、最寄りのビデオ屋においてなくて、新宿TUTAYAで発見した。1972年。監督は三隅研次だけど、漠然と観ていると三隅研次っぽくない部分もあって、この監督への興味がますます強くなってくる。
女親分的な役柄で登場する浜木綿子が良い。そういえば『新座頭市 破れ!唐人剣』にも出ていたな。こういった役柄をたくさんこなしているのかと思ってデータベースを探ったら意外と少ない。
http://www.jmdb.ne.jp/person/p0333500.htm
本作の焦点となるのは、真の「武士道」ということだろうか。加藤剛若山富三郎の対決は、虚無の時代にどう死ぬべきか逡巡している加藤に対して、拝一刀=若山が「死をもって生きること(冥府魔道に生きること)」こそ真の「武士道」だと告げることで終わる。介錯を勤め、転がる生首。さらに、その姿を遠方から眺める女親分と2人の子分。女が拝の姿に情念を揺さぶられるのを見て、あいつは化け物だと言って引き留めようとする子分たち。傑作。

*1:昨年末の勝新太郎映画祭にて。ぼくの当時の日記参照。日付忘れた…。