就職協定不安アリ

行定勲が表紙の今週の『AERA』に、「復活『就職協定』混乱の採用計画」という記事があった。問題をシリアスに演出するこの雑誌の術策には毎回うんざりするけど、まともにぼく自身に関係してくる内容だったので少し気になる。
ここで話題にのぼっている経団連による倫理憲章には「卒業学年に達しない学生に対して、面接など実質的な選考活動を行うことは厳に慎む」という一文があるらしい。つまり、企業側は大学4年生になるまで面接に呼んではいけないという意味である。事実大手を含む630社*1の賛同が公表されてからは、業界にかなり波紋を投げかけているらしいのだ。
企業の採用担当者の経験則には「早めに会う学生ほど優秀」という共有概念があり、一方で倫理憲章を受けて、学生が4月からが就活本番だなという意識になるだろう予期もあり、企業側の当惑は高まりそうである。しかし、就活側にも面接日程のバッティング問題とか焦燥感の高まりとかデメリットが増えてしまう。香山リカ著『就職がこわい』で俎上に載せられた若者の不安の加速にもおそらくつながるだろう。
この倫理憲章は、企業による内定者選考活動期間を絞り込むことで、就職・採用状況に秩序を与えようとする意図があったと思われる。しかし、現実的にどういう波及を与えるか分からないにせよ、学生にとっては就職への敷居を高めるものでしかなく、無業者を増やすことにつながってしまうだろう、とぼくは思う。外資系の企業は経団連の倫理憲章とは無縁だと書かれているけれど、まさに学生側でも、留学するぐらいモチベーションの高い人たちにとってはほとんど影響がないと思う。要はその他大勢のフリーター予備軍にどういう影響を与えるかだと思うが、そんなことはあまり考えられていないのだろうか…。
ちょっと前にはてな界隈でも発掘されていた鈴木晶の日記*2でも、3月7日にフリーターに関する記述があった。
http://www.yomiuri.co.jp/culture/news/20040312i405.htm
そう、フリーターは不幸なのだ。村上龍の『13歳のハローワーク』のような知識が若者を動機付けるはずもない。まあ、ぼく自身が思うに、もっと若い世代が早くから『13歳のハローワーク』を与えられて、自分の将来のビジョンを明確にしていくのはとても有益なことだと思う。ともかく、鈴木晶も若者にどう伝えれば…と困惑しているようだった。若者が不安に苛まれるのは心理的な自己スパイラルなのだから、そこに他人が介入しようとすれば徹底的にやるしかなく、遠目に言葉を投げかけるぐらいでは何も変わることがない。一時的に動機付けられようとも、ひとつの些細な失敗(それが客観的に見て失敗に思えないようなものでも、主観的に失敗と思ってしまえば失敗である)が再び自己スパイラルへと押し戻す。
先日のNHKスペシャルはひとりのひきこもり青年(30歳ぐらい)の特集だった。彼も確か大好きな玩具屋で働いていて仕入れまでやらせてもらえるぐらいに期待されていたらしいが、期待に応えようとする責任感が過剰になりすぎて仕事をやめてしまったのだった。カメラに向ける彼の穏やかな表情からはリストカットを続けるような重症のかけらは見えもしないが、他人の介入しない時間に自己スパイラルの罠が待っているということなのだろう。
このところバイトばかりで余裕のない生活(『メタルギアソリッド』をやりたいというのに!)だから、ぼく自身もそういった自己スパイラルと無縁ではない。そうはいってもぼくには七瀬なつみの離婚の方が大きな関心事だった。若者の不安について考えるよりも七瀬なつみについて考える方が気持ちがいい(現実逃避!)のだから仕方がない。数年前にル・テアトル銀座の最前列で観た『コミック・ポテンシャル』でのアンドロイド=七瀬を思い出して感慨に耽ってしまった。

*1:この記事に挙げられているところは、ソニー東京三菱銀行東京海上火災保険トヨタ自動車三菱商事だった。

*2:id:Hoshinoさんたちが四方田犬彦『ハイスクール1968』の受容文脈を話題にしていたけど、ぼくはベタ気味に読んでいたこともあって鈴木晶の日記で書かれていたことに少し驚いた。それにしても、そうすると『新潮』での四方田犬彦×坪内祐三対談は不親切だと思う。