長谷川和彦はなぜ沈黙しているのか?

ぼくにとっては盲点だった70年代の大作映画を突いた、樋口尚文による批評『『砂の器』と『日本沈没』70年代日本の超大作映画』を読む。著者のスタイル自体は極めてオーソドックスなのだが、取り上げた1本1本の映画に対する眼差しが丹念であり、それゆえに、逆説的に面白い内容になっている。
たぶん、当時は批評家に軽視されたであろう『砂の器』『戦争と人間』『華麗なる一族』『日本沈没』『八甲田山』『人間革命』『ノストラダムスの大予言』などの70年代大作映画群は、同時代にこういったスタイルで批評されたとしても退屈なだけだったろう。しかし、今の日本映画の状況を思考する上で、70年代映画に痕跡が残っている「抵抗の身振り」を検討することに意味がある、という著者の立場はよく分かる気がした。
本書では、一貫して、スタッフたちがどのように大作に抵抗したかという視点から、70年代の「駄作」が振り返られる。いや、その中には輝ける名作もあった。現在から観た70年代の大作映画の交通整理としての機能もある。もっとも、もう一方には豊穣なる70年代のプログラムピクチュアもある。それとの関係で大作映画群を検討する視点も必要だったとは思うけれど、一見徒労に見えるこれだけの再検討をしていることは無駄にはならないとぼくは思った。