マダムと教授

コーエン兄弟レディ・キラーズ』。実のところ、『デイ・アフター・トゥモロー』か『21グラム』を観ようと思っていたが、レイトショーの15分前ぐらいに劇場に行くと、その2つは前1、2列しか空いていないらしく、諦めてこの映画を観ることにしたのだった。チケットを購入する列に並んで後、財布にはレイトショーの料金1200円しか入っていなかったことに気づいた。
つい最近、4月に『ディボース・ショウ』を観たばかりでコーエン兄弟のこの新作にはまったく期待していなかったが、これがなかなか完成度が高い。もちろん、コーエン兄弟的な虚構空間の完成度の高さ…という意味なので、映画的に素晴らしいかどうかという問題とは別である。しかし、『ディボース・ショウ』に比べると丹念に作られていると思う。
前回は良くも悪くもキャサリン・ゼタ=ジョーンズに引きずられた面もあろうが、今回は暴走気味のトム・ハンクスの演技はバラエティ豊かな仲間たちと最大の敵マダム、そして田舎町の変人たちの偏向ぶりと拮抗していて、語りの中に忠実に収まっている。仲間が次々と犬死していく辺りは、これぞコーエン兄弟の真髄と言える小気味良さで笑わせてくれる。そして、教授の最期には、やはりコーエン兄弟らしい演出で妙な抒情を漂わせる。
とはいえ、昔はコーエン兄弟に熱心だったぼくも、今はほとんど感心することはない。広角レンズのバストショットやキャラ立ち具合が嫌いなわけじゃないが、新たな冒険作を観てみたいものだ。もっとも、銀行強盗モノとしては、同じように地下トンネルの手段を用いた『死に花』の3倍ぐらいは面白かったかな…というところ。