真夏の秋葉原

ごった返す人ごみむれむれにょ…というわけで久しぶりに秋葉原に行ってきた。いつも利用している中古ソフトショップでPCエンジンの掘り出し物でもないかなと思って立ち寄ったら、わりと大掛かりな配置替えがあったようで、PCエンジンのスペースが縮小されていた。あの悲劇が再び…まだ実家にいた頃、確か高校ぐらいまでは近くにあった普通のおもちゃ屋でもPCエンジンの新作を入荷していたものだ。大きな中古ショップではたくさんPCエンジンソフトが置いてあった。ところが突然、たぶん次世代ハードが一斉に登場した後ぐらいだったと思うが、新作は入荷せず、中古ショップでも突然買取をやめてたのだった。そんな悲劇が再び…もしそうなったとしてもいまやインターネットがあるから、決定的な悲劇にはならないが。
大通りに出てすぐに目に付いたのが「ラブメルシー」という大型のアダルトショップだった。万世橋署の斜向かいのアダルトショップ「M's」みたいな外観だったので興味を惹かれて入ってみたけど、充実度は低かった。5階以上は業者向けで立ち入り禁止になっていて、地下1階と地上4階が一般客用のフロアになっている。2階は女性用フロアだったが女性は見当たらなかった。ひとりじゃ入りにくいだろう。秋葉原だし。渋谷の裏通りにあるような小さなアダルトショップにはけっこう女性がいたりするものだが。暑さで溶けそうになりながらも秋葉原をうろついて、帰りに「M's」に寄ってみた。すると、やはり「大人のコンビニ」を名乗るだけあってか、客も多く、1階の特集コーナーではなんとニューハーフもののビデオ&DVDを常時2本上映中であった。老人の団体やカップルが当惑しつつも目を凝らしている光景はなんとも言えない感じだったが、さすが「M's」だと感慨深かった。
そういえば藤木TDCの『アダルトメディア・ランダムノート』を読んでいてもニューハーフ(シーメール)ものを取り上げている回があった。フェチ系が充実しているレンタルビデオショップにおいても、さすがにニューハーフものを見つけることはけっこう難しい。実際どれぐらいのシェアがあるのか分からないが、さまざまフェチ系それぞれにある程度の層がくっついているのだから、AVなどの予算の少ないメディアにおいてはむしろ固定客を見込める商品だろう。にもかかわらず未だ浸透度が弱いと思えるのは、個人的な思い入れが強すぎるゆえの杞憂なのか?
いずれにせよ「M's」の特集コーナーをニューハーフものが占めていようとは驚くべきことだった。だいたいこの手のシリーズは同じ監督によるものだが、山本竜二にしろシルヴィア(?)にしろ余程の情熱があるのだろう。それにしてもニューハーフものの作りもあらゆるジャンル同様に、一般的には退屈なものが多く、出演者の優劣に左右されてしまうのは免れない。もっとも、件の『アダルトメディア・ランダムノート』に紹介されていた豊田薫の作品はすごそうな内容だった。
そう、フェティシズムなんて退屈でしかないのだ。ちょうど阿部和重の『映画覚書vol.1』を読み終えたばかりなのだが、フェティシズムを取り上げている回の内容を思い出していた。『アメリカン・ビューティー』と『ロゼッタ』を題材した考察は、フェティシズムそのものの描写ではなく、必要なのはもっと原理的な意味でのフェティシズム(対象への執着)だという結論となっていた。それはAVにも当てはまるだろう。さんざん『アダルトメディア・ランダムノート』の藤木TDCが問題とすることとも重なるが、いわゆる「裏」や「薄消し」といったことへの執着はポルノ解禁と共に消失してゆくことに違いないわけで、表現として面白いのは対象への執着としてのフェティシズムがあるものだ。その執着心の発露のされ方は、表現者それぞれによって異なるのだから、その分だけ異なる表現が見られるだろうに。バクシーシ山下の冷めた語り口は、逆説的にも対象への執着を感じさせてくれる、と思ったりする。