シャカイ系映画

大きな社会問題を背景にして過去に影を背負った男女の関係を描いたこの映画は、丹念な演出の積み重ねによっていかにもフィクションっぽい大袈裟な設定にぎりぎりのリアリティを生じさせることができているように思うが、素直にそれを肯定できない違和感を覚えたのも確かである。
スティーヴン・ザイリアンらによる脚本やシドニー・ポラックによる演出はそんな方向には誘導していないはずだし、ショーン・ペンニコール・キッドマンの演技も、よくあるようなつまらぬ演技合戦ではなく、抑制された、あくまで佇まいで見せる飛躍のない演技であって、映画の大きなテーマを歪めているとは思わない。しかしそれでも、この映画のアプローチがどこか疎外感をもっているように思えてしまうのは、ある国家の独裁者による民族虐殺、テロリズム、国連の正義と個人の正義などといった要素がスター級の俳優2人の人間ドラマと並列させられているからだろうか。
物語上、国連などのレベルでの話と2人の関係性のレベルでの話は緊密に絡み合っているわけだが、複雑な社会問題と人間の複雑なトラウマが分かりやすい筋で結ばれてゆくのは見事だし、その過程も丁寧である。娯楽としての映画であれば、よくできた内容であり、実際その通り娯楽映画であるわけだから、まったく問題はないのだ。
しかし、この映画のトーンには微妙なところがあって、社会問題に正面から向き合ったテーマ性の強さもうかがえる。その割には民族虐殺やテロリズムを中途半端に派手に描いている。一方、国連通訳者の女とシークレットサービスの男の関係は表象不可能なものをいかに描くかといった配慮の働いた演出、芝居を実現させているように思える。つまり、そういった対比で見ると、たとえ物語上そうでなくとも、スター俳優2人に社会問題系が奉仕しているかのような作りに見えるのだ。このアンバランスさこそ、この映画のリアリティを素直に肯定できない理由である。
こういった映画は好きなだけに、ちょっともやもやしたものが残ってしまった。