皇帝と呼ばれる所以

予定していた映画は観に行けなかったが、携帯で「ぴあ」のサイトを見ていたら恵比寿ガーデンシネマで『皇帝ペンギン』のレイトショーがあることを知った。人が密集する前に観ておきたかったので行ってきた。

ペンギンの主観を代理したかのようなナレーションの是非は微妙だが、苛酷な状況の撮影は見事。よくあれほど安定した映像を撮れるものだ。ブリザードの吹き荒れる氷上もすごいが、海中の映像、空の映像もすごい。海中では猛スピードで泳ぐ皇帝ペンギンにカメラを付けたのでは、と思われる主観映像まである。アザラシと皇帝ペンギンチェイスシーンの迫力は、まるで戦争映画の空中戦のようである。
しかし、一番の見所は皇帝ペンギンの親子の「物語」だろう。動物に「物語」を見るなど人間の欺瞞でしかないのだが、実際にペンギンの親子の映像を見るとナレーションにもあるように「魔法」のかかった「物語」と見えてしまう。求愛のダンス、そして交尾。卵を父ペンギンに託して餌を求めて旅立つ母ペンギン。ブリザードの猛威を耐え、生き延びる父ペンギン。その父ペンギンに守られた卵の中から初めて世界に顔を覗かせる子ペンギン。圧倒的な数の中、離ればなれになった親子が声で互いを認識する場面。やがて餌を持ち帰る母ペンギンが子を認識する場面。ブリザードにやられ、子を失った母ペンギンが発狂し、他の母ペンギンから子を奪おうとする場面。まさにその一瞬がカメラにとらえられているのは奇跡的だ。その中で最も奇跡的だったのは、本来は決して再会せず別々に子ペンギンに接するはずの父母ペンギンが偶然に互いを認識する場面だった。互いが寄り添い、向き合ってくちばしを重ねる時、その間には子ペンギンがちょこんと立っているのである。父母ペンギンの美しいフォルム。子ペンギンのまだ不定型なフォルム。このワンカットはすごかった。