ほとばしる情愛

歌舞伎町のストリップ劇場で開催されているSM大会。14日の最後の演目は緊縛師・幽幻とその妻・無我による緊縛ショーだった。
荒々しい尺八の音の中、舞台中央ではだけた胸から縛り始め、やがて和太鼓の音に変わる頃には盆の方へと場を移し、無我を吊り上げる幽幻。きれいに剃り上げた陰部をさらされながら、片足を後方にそらされた姿勢で見事に緊縛された無我に赤いロウが垂らされる。音はいつの間にか般若心経を経てまったくの無音になっていて、その日2回目の実演のためか幽幻の竹刀攻撃に声もあげることができない無我の横で、彼は汗を散らしながらうなり声をもらす。
観ている方にまで緊張感が走っているというのに、幽幻は無我を逆さ吊りにする。厚い化粧の下でもそれがうかがえるほど血の気も失せた顔が目の前に降りてくる。音のない空間で息を呑む。照明の中に浮かぶ奇麗な肌、ピンクに色づいた花びらとは裏腹に、彼女の消耗した表情と少し重力に負けた乳房がその若くない年齢を教えてくれる。
あまりに過酷な逆さ吊りを終えた後、盆の上で憔悴した無我を気遣いつつ、緊縛を解く幽幻。身体を軋ませる縛りと相手の身を守るための縛り。前半のゆっくりとした縛りと対照をなし、後半は生から死へと2人の失墜が加速する。首をうなだれた無我の前に腰を下ろした幽幻が取り出したのは、刃渡りの長い匕首。そこで行われるのがショーであると分かっていても、赤い照明の中に浮かぶ幽幻の表情はサングラスでさえぎられつつも、いや、さえぎられているからこそ表象不可能な情愛をはっきりと刻んでいて、そこに決意の意志を読み取ることができる。だから、あれほど消耗していた無我もその愛のある刃を腹部に受けて、悲しいうめき声をもらさずにはいられない。そして、最後に幽幻は自らの首に刃を走らせ、2人は互いの身体を死の中で暖め合うのだった。
ロマンポルノの中でもとりわけ小沼勝監督、谷ナオミ主演の『生贄夫人』が好きなぼくにとって、このショーはまさに情念、情愛のほとばしるものであり、感動的だった。昔は確かにこのようなSMや切腹ショーが多かったのかもしれないけど、スタイリッシュなSMショーに慣らされた目には衝撃だった。しかも、多少面識のある幽幻氏の普段の穏やかな人柄、人情への熱さを思うと、どれほどの気持ちを妻に込めたのか想像を絶する。まさに情念の縄。