百合族にあこがれて

  • 制服 百合族【原題:セーラー服 百合族】(監督:那須博之、出演:山本奈津子、小田かおるetc)
  • グレートハンティング(監督/製作/脚本/撮影/編集:アントニオ・クリマーティ)

亀和田武が何かの雑誌で書いているのを読んで「中学生日記」のことを意識していたら、ちょうど仕事から帰った後にテレビをつけると数年ぶりの「中学生日記」の画面が飛び込んで来たのだった。そういえば、朝通勤の際に、今月末にある女子プロレスにおけるトーナメントの行方をあれこれ想像していたら『ビッグイシュー』を販売するホームレスが目の前にいたので、ああそういえば昨年仕事をやめてからずっと通勤時に『ビッグイシュー』を買うという習慣がなくなっていたなと思い、購入して会社までの道で歩き読みを始めたらいきなりアジャ・コングのインタビューが乗っていた。
そういう符合が朝にあったので、この「中学生日記」の放送も見ないわけにはいかない。「中2デビュー」でスカートを短くするなどイメチェンした少女の話だった。服装ばかりか髪型やメイクもばっちりきめて堂々とイメチェンした彼女の周りにはしだいに友達が増えていく。先輩からもメイクを教えて、と頼まれたりする。友達にメイクやコーディネイトをしてあげて一緒にプリクラを撮るなど、女子特有の戯れに喜びを見いだす少女。しかし、それは上辺だけの付き合いだった。周りの少女たちは彼女のことをメイクもしてくれるし、おしゃれな服やバッグを貸してくれたりする「便利屋」と思っていただけだった。そして、彼女自身かつてはブサイクと言われ続けた過去があった。担任の先生の優しさを拒み、帰った家では部屋に籠り、母にあたる。
しかし……この後の展開が素晴らしかった。亀和田武が誉めていただけのことはあって「中学生日記」を軽視していた自分を恥じねばならないと思った。彼女はブサイクな自分を鏡で見ることに苦痛を感じていたので、自分の部屋の姿見を赤いビニールテープで封印していた(これはなかなか忌まわしさを感じさせる)。部屋に籠ってしばらくしてそのテープを剥がし、鏡で自分の顔を見る少女は自分に向って「ブサイク」とつぶやく。その表情はすでに暗くない。翌朝、娘との距離をおそるおそるうかがう母が「朝食は?」と訊ねると娘はぶっきらぼうに「いらない」と言い、ああやはりまだ傷は癒えていないのだなと思ったら、すぐに彼女は母に「もう、大丈夫だから」と言ったのだった。元気にミニスカートで登校する彼女の姿に重ねて少女自身のナレーションが入る。「私はブサイクかもしれない。でも可愛くないわけじゃない」(正確な台詞は思い出せないがたぶんこんな感じだったと思う)清々しいラストだった。
『制服 百合族』では女子高生2人の「百合」関係が描かれる。冒頭の美しいシーン。夜のプールの中で全裸の少女2人が人魚のように泳ぎながら愛を確かめ合う。流れるアイドルソング風のBGMも良い。小田かおるの演じるボーイッシュな少女が彼氏との子供を妊娠したかもと勘違いするところから、少女たちの関係は変化する。小田かおるが男に流れるのだ。取り残される妹風の山本奈津子がいじらしくて可愛らしい。山本奈津子のことを鬱陶しく感じる小田かおるは、彼氏を交えて3人でいる時に彼女が大好きなチョコレートパフェを3つ食べさせるといういじめをするのだが、彼女のことが大好きな山本奈津子は意地になって泣きながらチョコレートパフェを頬張ったりするのだった。
全編が瑞々しくて楽しく、明るい性に満ちた映画である。「中学生日記」に続いて『制服 百合族』を観ていて女子の百合的な関係の素晴らしさばかりが印象に刻まれた。機会があれば女ではなく「女子」というものを体験してみたいと思った次第である。その後『グレートハンティング』のDVDを観ていたらそんな優しい気持ちはどこかに行ってしまったのだが……