第18回ピンク大賞オ−ルナイト@新文芸座

  • ミスピーチ 巨乳は桃の甘み(監督/共同脚本:吉行由実、音楽:加藤キーチ、出演;林由美香、薫桜子、小島三奈etc)
  • 援助交際物語 したがるオンナたち【一般公開題:かえるのうた】(監督/脚本;いまおかしんじ、出演:向夏、平沢里菜子etc)
  • 欲情ヒッチハイク 求めた人妻(監督:竹洞哲也、脚本:小松公典、出演:夏目今日子、華沢レモンetc)
  • わいせつステージ 何度もつっこんで(監督/脚本:後藤大輔、出演;小滝正太、川瀬陽太、向夏etc)
  • 人妻を濡らす蛇ーSM至極編ー(監督;池島ゆたか、脚本:五代暁子、撮影/照明:清水正二、出演:山口真里、水沢ゆりなetc)

AM6時40分頃に終了。充実した内容だった。涙と笑い。ピンク映画は今もなお素晴らしい。
22時20分頃、開場。ほぼ満員御礼状態。関係者、出演者、スタッフ等ちらほら見かける。30分、開演。まずは第18回ピンク大賞の授賞式。泥酔状態で呂律の回らない池島ゆたかとAVから新人ピンク女優と転身した日高ゆりあが司会者と共に壇上へ。新人女優賞から順番に発表。池島ゆたかの酔っぱらい進行で予定時間を大幅に押しつつも、だらだらした楽しい雰囲気の場内であった。特別賞の林由美香が表彰されるまでは……
<作品部門>
1位 援助交際物語 したがるオンナたち
2位 わいせつステージ 何度もつっこんで
3位 痴漢電車 挑発する淫ら尻
4位 欲情ヒッチハイク 求めた人妻
5位 ミスピーチ 巨乳は桃の甘み
6位 年上のOL 悩ましい舌使い
7位 欲情喪服妻 うずく
8位 ハードレズビアン クイック&ディープ
9位 人妻を濡らす蛇 ーSM至極編ー
10位 襦袢を濡らす蛇 ーSM開華編−
次点 援交性態ルポ 乱れた性欲

<個人部門>

  • 監督賞

 竹洞哲也(『欲情ヒッチハイク 求めた人妻』他)

 小松公典(『欲情ヒッチハイク 求めた人妻』他)

  • 女優賞

 向夏(『援助交際物語 したがるオンナたち』他)
 華沢レモン(『美肌教師 巨乳バイブ責め』他)

  • 男優賞

 松浦祐也(『痴漢電車 ゆれて密着お尻愛』他)
 牧村耕次(『人妻タクシー 巨乳に乗り込め』他)
 吉岡睦雄(『SEXマシン 卑猥な季節』他)

  • 新人女優賞 

 夏目今日子(『ハードレズビアン クイック&ディープ』他)
 平沢里菜子(『援助交際物語 したがるオンナたち』他)
 池田こずえ(『肉体秘書 パンスト濡らして』他)
 矢藤あき(『美肌教師 巨乳バイブ責め』他)

  • 技術賞

 加藤キーチ(音楽:『ミスピーチ 巨乳は桃の甘み』他)

  • 特別賞

 林由美香(女優としての全功績に対して)

平野勝之の『由美香』にもちょっとだけ登場する林由美香の母が由美香に代わって特別賞を受けた時のスピーチ、そしてそれまでだらだらと饒舌になっていた池島ゆたかの林由美香への思い、ピンク映画スタッフの思い、これまでスクリーンで林由美香を観て来た人たちがその愛すべき姿を頭の中で蘇生させた瞬間だった。その後に上映された林由美香の思い出クリップ。ぼくは昨年のピンク大賞には行ってないけど、あの素晴らしい映画『たまもの』での見事な演技によって林由美香は女優賞を受賞したのだった。また、プレゼンターとしても壇上にいたということが、多くのファンにとっては余計にその喪失感をかき立てるものだったに違いない。その後すぐに順番を変更して上映された『ミスピーチ 巨乳は桃の甘み』は林由美香の遺作となったが、そのエキストラに参加したぼくも昨年スポーツ紙で訃報を目にした時と同じく、やはり強く喪失感を覚えてしまった。偶然なのかもしれないが、『ミスピーチ』の撮影の際に撮られていたメイキングを編集したものが映画上映後に「由美香メモリアル」として流された。コメディエンヌとしての林由美香の側面を強調した遺作での存在感もそれまで通りにたくましくて愛らしいものであり、哀しい涙は楽しい涙へと改められたのだった。
さて、次に上映されたのがこれまた運命的な映画である。いまおかしんじによる『援助交際物語 したがるオンナたち』は林由美香主演の『たまもの』の受賞で得たフィルムによって撮られたものだったのだ。それが作品賞を勝ち取った。いまおかしんじ独特のテイストが行き渡った物語である。それはまさに『かえるのうた』と言った方が良い作品だ。男に恵まれない女2人が微妙な距離感の関係を保ちつつ、友情のようなものを育み、しかし別れて、後に再会するといった内容には要約できるかもしれないが、実際に目にすると印象に残るのは人物の動作だったり女たちの表情だったりする。ときおり入り込むユーモアは独特な世界観を壊さず、内部からじわじわこみ上げてくるような笑いを呼び起こす。そして「かえるのうた」。これがとても楽しい。ラストの2度目の「かえるのうた」はこの映画すべてを包み込むばかりか、映画の外まで巻き込んでしまうような素晴らしい光景だった。女優賞を獲得した向夏がとても愛らしい。本当にもっともっと広く観られるべき映画だと思う。
『欲情ヒッチハイク 求めた人妻』と『わいせつステージ 何度もつっこんで』はタイプはそれぞれ違うが、どちらも脚本がよくできているためか物語の展開で魅せてくれるし、その展開がどこへ向ってゆくのか……と気にしているとラストが爽やかに泣けてしまうような感じなのである。前者はロードムービー調から転調した後のある種ユートピア的な停滞が素晴らしくて、中心となる2人の人物の関係の描き方など世間にあふれかえっている一般映画を軽く凌駕する。確かにピンク映画のほとんどはキャラクターをぞんざいに扱っている感じがして、また、エロを求めた場合それはある程度仕方ない部分ではある。けれど、『欲情ヒッチハイク』の最後の方にあるまさに「最後のセックス」は過去の呪縛から現在への断念が混在した素晴らしいセックスシーンだと思った。同様に、『わいせつステージ』はこれもまた向夏が盲目の少女を愛らしく演じていて、彼女と師弟関係である2人の腹話術師の悲喜劇的な物語に引き込まれる。一方で、この映画は周辺の人物たちの描写も行き届いていて、ピンクのおよそ60分という制約上、群像劇として満足できるほどではないにせよ、それぞれに愛着が持てるほどに意識が注がれている。盲目の少女に、予期せぬ偶然が絡んだとはいえ決定的に重大な嘘をついてしまったことが売れない腹話術師にも大きな影を落としてしまうのだが、映画の展開と共にそういった影が画面全体を覆ってゆくかのごとく見えるようだった。そして、真実を話してしきりに謝る時、公園にある夜の舞台で並んで腰掛ける2人をカメラは全身の映るサイズでとらえているのだが、その場面でほろりと落ちる腹話術師の涙が本当に一瞬光ったように見えて美しかった。ラストで向夏演じる盲目の少女が子供を連れているというのはまさに『援助交際物語』の反復だった。その明るくすべてを包み込む感じが、ここまで観た4本のピンク映画に共通していたのである。
そしてベテラン池島ゆたかの異色SM映画『人妻を濡らす蛇 ーSM至極編ー』。これはもう、ひとつの世界観を完璧につくりあげていた。だから、それまでの4本とは全く趣を異にする。同年の『花と蛇2』と比べてどちらが面白いかと言われれば、何の迷いもなく『人妻を濡らす蛇』と答えるだろう。暗く、陰湿な雰囲気ではあるが、見事な娯楽作品として結実していると思った。ただし、朝6時も回っているという時間だったので、とにかく眠かったというのが少しもったいなかったという次第である。
一定の本数を観るというピンク大賞ベストテン投票者の基準はこなせているが、どうしても重要な作品を落としてしまい後から特集上映やDVDで観るはめになってしまっている。今年、いや来年こそはぼくも投票者としてかかわりたい。これほどに素晴らしい5作品を観て、今年のピンクも楽しみになった。