シナリオ作家 新藤兼人@東京国立近代美術館フィルムセンター

tido2006-04-16

58年の映画である本作は井上靖のベストセラーを原作としていて、ぱっと見た印象は超大作といった感じで、雪山のロケーションの迫力もなかなかのものなのであるが、それをたった96分で語り切ってしまうテンポがとにかく圧倒的だ。サスペンスドラマとして、冒頭から最初の疑問に至るまでの展開も素晴らしい。雪山帰りの男が学生時代から共に山を登っていた親友と会い、ちょうど彼は女を待っているところで、3人が偶然のようにテーブルを囲む場面。女は意味ありげな小物を知らない男の存在にとまどいながらも、待ち会わせていた男に渡す。その女を演じるのは山本富士子である。その後、初めてあった男女がタクシーに乗ることになり、そこで話される秘密。別れ際、女がさらなる秘密を明かす時、マフラーみたいなもので口を不自然に塞ぎつつ、その告白をする姿の物々しさ。冒頭にこのような流れが描かれているということが、実は物語の結末を予感させてはいたのである。傑作に違いない。