なけなしの金

tido2006-05-23

ポレポレ東中野にて。東中野に行ったのは久しぶり。若松孝二の新作以来かな。大学1年の頃は韓国系の教会(韓国美女に癒され、タダ飯を食うため)に入り浸っていたので週の半分ぐらい東中野の地を踏んでいたのだが。
18時に仕事を終えると、映画の時間までスロットを打つ。昨日の苦い敗北の味を忘れたらしい。様子見程度に数台を打っているといつの間にか1万使ってしまい、このまま時間切れで負けパターンになりそうな気がして来たので、最近はご無沙汰だった南国育ちを打つことにする。高田馬場のその店はちょうど南国育ちが半分456というイベントだったし、2度のボーナスで「蝶々が飛んでいない」台があったので迷わず座る。あとは鳴るまでひたすら打つ。2千円でキュインッ!と鳴り、そこから蝶が3回飛ぶ。本来ならすぐヤメるべきだったがちょっとだけ回すと遅れが……。その後も遅れ頻発でチャンスモードほぼ確定。もちろんやめるわけにいかず、450Gほどで鳴って、これが蝶飛ばず。コインが少なくなり、焦りが出てくる。時間の余裕もないので仮天井まで連れていかれるわけにはいかない。なんとか300G手前でキュインッと鳴り、蝶も飛ぶ。しかし、単発。その後、運良く4G目にREGを引いてヤメ。結局、最初の連荘後よりもコインを減らしてしまったけど、なんとかプラス。
南国育ちとは、2、3年前にホールに登場したパチスロ機種である。南国物語の後継機であるらしいが、こっちの方は打ったことがない。南国育ちはその絶妙なゲーム性によって人を虜にする。沖スロ*1ではあるが、25パイの方も出回っている。完全告知のパトランプとキュインッという衝撃音。他の沖スロと同じく、その単純明快な興奮がまずひとつ。加えて、1G連荘を告知する「蝶々ランプ」の存在。これが点滅して光るとボーナス後に即ボーナスが放出され、かなり高確率で連荘が続く。この爆裂性も魅力だ。南国育ちに魅了された者はこのことを「蝶々が飛ぶ」と表現し、ボーナス消化ラスト8G間(さらにボーナス後1G目にも期待できる)、全神経を尖らせ願いを込めたこぶしでレバーを叩くのである。異様な光景が繰り広げられる。しかし、南国育ちはそれほどに人を狂わせる。蝶々中毒者たち。キチガイのように蝶を追い求める。ぼくもどれほど狂わされたことか……。一時中断していたから最近は「蝶々騒ぎ」がおさまっていたのだが、やっぱり目の前で飛ばしてしまうとどうしようもなくなる。しかも、1度や2度しか飛ばないと、10連ぐらい蝶々を飛ばしたいがために狂ったように追い続けてしまう。絶妙なモード移行率の振り分けのせいもある。
危ない……このままでは蝶々の話で終わってしまうところだった。蝶々を飛ばせるために嫌な汗をかいてしまったので、東中野に着くとアクア東中野という銭湯へ。上の写真にあるのがそうだ。駅から歩いて5分ほど。ポレポレ東中野にも近い。入浴料400円。タオルも50円で借りられる。仕事帰りにポレポレ東中野に行く時など、夏場はちょうどいいだろう。気持ちよく汗を流した。そしてレイトショーで特集上映のピンク映画2本。以下、映画について。
前者の『団地の奥さん、同窓会へ行く』は、狙っているのが分かって、それなりにその狙いに忠実につくっているように思えるがあまり興味がもてなかった。脚本の小林政広は『バッシング』が話題になったということもあって注目の監督ではあるが、ぼくは前に『ブートレグ・フィルム』という作品をビデオで観たことしかなく、なるほどその手の狙いが好きな人なんだなと思ってあまり好みではないなと決め込んでいて、そこでこの『団地の奥さん』を観たら、大雑把な印象としては『ブートレグ・フィルム』と似た狙いを根底に感じたので、やはり同じように惹かれなかったということだ。監督はサトウトシキだから、小林政広の名にそれほどこだわる必要はないのかもしれないが、これをピンク映画館で観たとしたら、多くの作品よりは丁寧に力を入れてつくっているけど、どの観客もある種の期待はずれな印象を受けるのではないかと思った。そういう意味では一般映画館で上映された方がいいような気がした。まあ、それもあってかところどころはポレポレ東中野の観客の笑いに支えられていたようだ。
一方『草叢』は文句なく素晴らしい。これぞピンク映画の傑作と形容できる内容。冒頭の2人の出会い、関西弁の会話、表情、心底楽しそうなセックスシーン、そしてその後、泥酔してふざけ合う2人、女が自転車を盗まれていることに気づいて見せるふとした悲しさというか虚無というか……ここまで観るだけでもこの映画を好きになってしまった。そこまでにすべてのエッセンスが詰め込まれていた。そして映画の進行と共にさらに広がっていく。
ピンク映画には十分な予算も制作日数もない。あるのは脚本、俳優、スタッフ、そしてありのまま現在。優れたピンク映画はそれを十分すぎるほどに生かす。団地、工場、一人暮らしのアパートの生活や人間模様。最小限かつ最大限にそれらが描かれる。飾り立てず等身大で撮られた速水今日子が映画と共に美しさを帯びる。彼女は、夫や夫の不倫相手やテレクラで知り合った若者や団地の派手な奥さんとの人間関係、そして残業しないとリストラされてしまいそうな工場の危うい状況で摩耗しつつも、踏みとどまりながら笑いと共にエロスを発し続け、そして最後にささやかに意志を言葉にする。そういった人物の描き方にはとても勇気づけられる。それを体現できる女優。素晴らしい。もっとも、周囲の俳優たちだって素晴らしかった。張りつめた役で登場する佐々木ユメカ、いまおか作品でのダメっぷりとはちょっと違って、現実を受け入れながら情愛を持ち続ける吉岡睦雄。あの長い手足を暗い部屋の片隅で折り畳んで座ることで、画面の暗さばかりが現実そのものを覆うかのようなそれ以上の影を映画に落とす伊藤猛
優れた脚本において役者たちは素晴らしい働きをしている。特に場面設定の巧さはちょっとした会話を印象的にしている。駅のホームでの妻と夫の会話。マンションを見に行くかという話をする夫。妻はその時団地の人間関係を嫌ってはいても、廃品回収の男のスピーカーが聴こえる団地に未練があるだろう。微妙な表情と間。そこに電車が入ってきて会話は中断される。また、女同士が夜の車の中で会話を交わすシーン。両者の表情を交互にアップで撮っているこのシーンは単に車の中という密室に加えて、カット構成がさらに密室性を帯びさせ、ピンク映画でよく用いられる色温度を利用した緑がかった映像になっていることも異質な空間性を際立たせる。
速水今日子の演じる女の生き様に心打たれつつも、吉岡睦雄がゴミ生活で稼ぐなけなしの金で人妻を買い、強く情愛を抱き、最後は速水今日子に「みんな自分勝手」だと罵倒されはするけど、どこかしら感情移入を誘うところがあり、じんわりと感動させられてしまうのだった。
このプログラムは本日まで。プログラムが入れ替わるたびにピンクでポレポレは観に行くだろう。明日からのプログラムも楽しみである。アクア東中野で汗を流すのも楽しみだ。なけなしの金でピンクを!

*1:沖縄向けのスロットの略で、特徴としては、高齢者の多い沖縄向けにボーナス完全告知の単純なゲーム性、30パイのデカコインを用いるということがある。ちなみに通常のスロットは25パイのコインである。