ガメラの化身

ガメラ創世記 -映画監督・湯浅憲明-

ガメラ創世記 -映画監督・湯浅憲明-

唐沢俊一が前書きで湯浅憲明監督について思い入れたっぷりにその数々の話の面白さを訴えていて、ああよっぽど子供の頃からガメラが好きだったんだろうなぁと話半分に読み始めたのだが、その前置き通りの話の面白さにいつの間にか夢中になってしまった。唐沢俊一が湯浅邸に通い、食卓を囲みながら聞いた話を構成したものらしいけど、その語り口といい、次々に飛び出してくるエピソード、制作裏話の数々は手放しに面白い。ちょっとだけ引用してみよう。
次の部分は特に面白かったところで、『ガメラ対宇宙怪獣バイラス』について場面ごとに監督が解説しているという設定である。そこでこんな話が飛び出す。

唐沢 ところで、この宇宙人の中に、『大魔神』の中に入った方(橋本氏)がいらっしゃると聞いておりますが……。
湯浅 あの、一番背の高い人ですね。もとオリオンズのセンターをやっていた男です。木村恵吾監督が菅原謙二主演で『一刀斎は背番号6』という作品を撮ったとき、僕はサード助監督についてたんですが、打った球をランニングキャッチするシーンがあって、彼にやってもらった。で、球を取って、地面を転がるんですが、そこでボキッ、と鎖骨を折ってしまった。選手生命はもうアウトです。それで、大映が気の毒に思って、役者さんとして彼を入れたんです。第二の人生ですね。わたしはその映画で、春川ますみさんが風呂へ入るシーンの湯気を立てたことを覚えているな(笑)。パンツはいたまま風呂へ入ろうとするので、
「そりゃまずいでしょう」
って言ったら、
「あら、そう」
ってパッとその場で脱いじゃった。驚きましたねえ。後年、「何たって18歳」に出てもらったとき、その話をしたら笑ってましたけどね。……いや、話がつい、ガメラからずれました(笑)。

こんな脱線話が面白い。かといってガメラシリーズについての話が面白くないわけではなく、単なる技術論や蘊蓄にとどまらず、当時の大映の人間模様やら湯浅監督のポジティブで力強い性格やらガメラに関わった人たちの多様なあり様がうかがえてとてつもなく面白いのである。さらに川島雄三衣笠貞之助から受け継いだ演出について語っているところもあり、とにかく充実した映画本に仕上がっていると思う。
というわけで、まずこの本を読んでガメラシリーズを観るというのもありだろう。