友だちなんかいなくったって平気だもん!

頭の中が整理しきれていない。今日はすごいものを観てしまった。久しぶりの衝撃。あまりに大きい衝撃ゆえに、それをどう処理すべきか自分でも対応しきれていないぐらいだ。何から書けばいいのか……。しかし、記憶が鮮明なうちに書いておかねばという気持ちは強く、知人たちと週末の夜をまったり過ごすという選択を辞して、終電ぎりぎりで家に帰ることを決意したのだった。
そろそろ本題に移ろうと思う。新宿DX歌舞伎町。歌舞伎町の奥に位置するストリップ小屋。6月6日から開催されている紅薔薇座による「レズビアンSM Mix公演」に行って来た。女性限定の日も設けている内容豊かな公演である。ぼくは前回に続いて2度目。知り合いの関係者を通じて無料で入ったので申し訳ないが、前回ではいくつかの演目を見逃してしまっていた。今回はちゃんと19時からの2回目公演に間に合うように行き、全演目を十分に堪能した。すべての演目に目を見張るものがあるばかりか、ラストの演目には衝撃という一言ではおさまらないものを全身に覚え、感動に涙し、打ち震えた。以下、各演目ごとに詳細な感想を。

  • 軍服〜コルセット〜自吊りショー(浅葱アゲハ)

独自の世界観で引き込まれる。浅葱アゲハの容姿を見た途端、その場の空気は一気に変質する。涼しげでありながら柔らかそうな表情。上半身に羽織った軍服と軍帽。ブーツを履いた下半身はかなり細身だが引き締まっている。銃を用いてしばらくゆったりとしたダンス。曲が変わり軍服を脱ぐ。露出したのは黒のコルセット。小ぶりな乳房の下、この世のものとは思えない「くびれ」がそこにある。彼女はコルセットのモデルなどもこなす(http://www.corset-tokyo.com/)ほど素晴らしいプロポーションの持ち主である。かなりの細身だが、均整のとれた身体には筋肉が付いていて、バストやヒップの辺りの曲線は美しい。コルセットを剥ぐと腹筋が浮き出ている。そのか細さと柔らかさの同居は、そのまま彼女の演目に通じる。
軍服を脱いだ後、コルセット一枚のみを身につけ、乳房も陰部も露出させた姿で行うのはアクロバティックな「自吊り」ショーである。かなりハードな吊りであることは一目瞭然だが、それをいとも簡単に行う筋力と縄を扱う手さばきなど実力を備えている。『SMスナイパー』の1年ぐらい前の号に、新時代を担う緊縛師たちのインタビュ−として4人の緊縛師が取り上げられていた。その中のひとりにドイツ人緊縛師・長田スティーブがいた。浅葱アゲハは長田スティーブと組んでSMショーをやっている。スティーブ仕込みの実力である。
そのアクロバティックな自吊りは、舞台の高低を存分に使い、ふだんのストリップ劇場では目にすることもできないその上下の運動に目を奪われ、空間は異次元と化す。彼女が空中で行う運動、その姿勢の決め具合を見ていると、まるでリアル「草薙素子」といった感じだ。細身ゆえに、身体の表面に微細な震えや緊張が浮き出ていて、簡単にやってのけているように見える運動がどれほどの綱渡りなのかを感じさせる。一見の価値アリ。

  • 歌謡ショー〜客調教(夜羽エマ)

冒頭の浅葱アゲハによるショーとうってかわって、登場してきたのは着物姿の美女。歳の頃は40ぐらい? 熟している。美空ひばりの曲をバックに堂々と舞台上を練り歩く。美空ひばりの曲が終わると、しとやかな歌謡曲が流れ、彼女は歌声を披露する。うまい。もしかしてただの歌謡ショー? もちろんそれだけでも間がもつぐらいの存在感を示しており、最初のショーの圧倒感に少々がっかりしつつも眺めていると、曲が終わると彼女は話始めた。ストリップを目当てに来た客を相手に堂々とした立ち振る舞いと、獲物を探るような視線。やがて客席にひとりの女性客を見つけ、彼女を舞台上にひっぱりあげる。口調は穏やかだが、逆らえないような強さがある。夜羽エマは女王様だった。彼女は舞台上に引き上げたおそらくサクラと思われる女性を巧みにコントロールし、S女として仕込みつつ、客席の最も前方に陣取る常連と思しきM男2人を舞台に上げた。
2人ともに60歳は軽くありそうな風貌。もうじいさんである。夜羽エマはひとりを「バカチョン」と呼び、もうひとりを「ミサト」と呼んだ。見習いS女に彼らを鞭打たせ、ローソクを浴びさせ、バイブでアナルを責めさせる。同時に、バカチョンに対して「ゴキブリのように歩きなさい」と命じ、そのゴキブリの過剰な演技に「うるさいんだよこのゴキブリは」と言い放ち、鞭をくれてやる。しかし、そんなそぶりには愛情があるのが傍目にも感じられる。ぼくがゴキブリの立場だったら彼女を信頼して身をすべて預けてしまうだろう。ミサトに対しては持参して来た女装セットで女装させた上で責め立てる。感じて甲高い声を張り上げるミサト(推定70歳ぐらいのじいさん)。
2人のM男を盆の上に並べて、見習いS女に後方から見学させ、「この時間はホモタイムになってきたわね」と言いつつ、観客の笑いをとる夜羽エマ。用意した青いテープのようなものをミサトの股間に取り付ける。そしてテープを引っ張りあげると、ペニスがまるでプロペラのように回転するではないか! S女にテープを引っ張らせて笑い声をあげる夜羽エマにつられてストリップを観に来たはずの観客たちもいつの間にか笑いにつつまれているではないか。圧倒的な玄人芸である。芸はそこで終わらない。ミサトを盆の中央に寝かせ、その上をまたいだ夜羽エマは着物の裾をたくしあげ、漆黒の陰毛に包まれた陰部を露呈させ、勢い良く小水を放出したのだった。ミサトの身体や顔をはじいたしずくは前方の席に座っていた人たちにまでほとばしったぐらいだ。

  • 金粉ショー(姫まいか&フジヤマナナ)

金粉ショーは好みが分かれるだろう。身体のフォルムをよりくっきり際立たせ、筋肉や脂肪の動きが如実に表れるという点ではエロティックだが、多くの金粉ショーがそうであるようにアヴァンギャルドなダンスというか舞踏によってエロスとは違う地平へと導かれる。それはそれで十分堪能できるものではあったけど、ぼくの好みではない。

  • SMレズビアンショー(レッドテイル あづさ圭&葵黄蓮)

紅薔薇座主催者あづさ圭とその恋人葵黄蓮によるドラマティックなSMレズビアンショー。小道具や舞台装置や衣装によって飾り立てられた舞台空間を存分に活用して、生と死、愛と別れの物語を描いていた。何より、あづさ圭の豪快な肉体、その圧倒的な存在感、それと対照的に、葵黄蓮の均整のとれた肉体と一目でその美に打たれてしまうような容姿がすごい。それらを眺めているだけでショーはあっという間に終わってしまう。この個性豊かな一座の演目の中では最もオーソドックスと言えるかもしれない。とはいえ、あづさ圭ならではの炎と剣を用いた危険な演出もあるわけだが……

生で早乙女宏美を見たのは初めてだった。上京して浅草ロック座に通っていた頃、河出書房の早乙女宏美の本を読んで切腹ショーはいつか観てみたいなと思っていたのだった。ぼくの記憶の中にあった早乙女宏美は脇毛をはやしている姿だったけど、今日の舞台で見ると脇毛は処分されていた。しかし、もうけっこうな歳なのに若々しくてとても魅力的である。先日もこの本(↓)を読んだばかりだったので、童心に返ったように早乙女宏美の一挙一動に釘付けになってしまった。

ロマンポルノ女優 (河出i文庫)

ロマンポルノ女優 (河出i文庫)

肝心のショーも、さすが元ロマンポルノ女優だけあって、『オペラ座の怪人』を下敷きにした芝居仕立てで見せてくれる。しかもひとりで数種の役柄を同時体現し、やがて佳境を迎えると、自縛・自吊り・自分で鞭打ちの3連打。表情は恍惚と苦悶がせめぎあう。なんという境地。ちょっとしたトラブルはあったにせよ、さすが舞台慣れをしているのだろう。動じることなく、自らのペースを引き戻し、ラストにはやはり華麗な切腹ショーを見せてくれたのだった。拍手喝采。感慨深い演目だった。

  • ロリータ萌えレズ?(ゆの&京)

いよいよこの演目について書ける。正式な演目の名は分からない。「ロリータ萌えレズ?」*1は仮に付けただけで、このショーはぼくの全認識を揺らがせるほどの凄まじい内容だった。はっきり言って泣いた。全身で震えた。たかがストリップなどではない。ストリップ劇場でしかやれない臨界の芝居を彼女たちはやってのけたのだ。
幕が開く。舞台には黒い布がかけられた台、その上に姿見鏡、そしてくまのプーさんのぬいぐるみ。セーラー服の少女が登場。京ちゃん。長い髪を2つに結んで可愛らしい。舞台から盆の方へと携帯をかざして歩いて来る。電話がつながる。しかし、どうやら相手は留守電。京ちゃんは少し悲しさを帯びた声で「エリちゃん」という友だちへのメッセージを吹き込む。
「エリちゃん、校門のところで待ち合わせてたのにどうしていなかったの? これ聞いたら電話ください」
京ちゃんはスポーツバッグと携帯を投げ出し、くまのプーさんぬいぐるみを抱きしめる。せつない。この辺りで入ってくる音楽が本当に絶妙で、何ていう曲なのか調査中なので分からないけど、感情をむき出しにした女の子の声で「泣きたいよ!泣きたいよ!泣きたいよ!」などと連呼するシャウト系の曲である。*2その曲の感情の高まりと呼応して、京ちゃんは抱きしめていたプーさんを思い切り投げる。けれど、すぐに悲しくなってプーさんを拾い上げて再び抱きしめる。曲のシャウトが鳴り響き、盆のところにプーさんを抱えたまま立ち尽くした京ちゃんはおもむろにオナニーを始める。ここで舞台の幕が閉じ、鏡などが隠される。盆の上では京ちゃんのオナニーが加速し、すぐにいってしまう。なんて悲しいオナニーなんだろう。たまにピンク映画でもこういった気分をうまく描いているものがあるけど、目の前の京ちゃんの芝居は圧倒的で、強く感情移入を誘う。
幕が再び開くと、少し様子が違う。鏡だったはずのものが吹き抜けになっている。姿見はただの枠。京ちゃんが悲しい絶頂から目覚めて起き上がり、鏡の方へ向う。鏡の前でへたり込む。ちょっとずつ身体を起こすと、鏡の向こうに京ちゃんとまったく同じ格好をした女の子がいて、うなだれたままの京ちゃんの目の前で立ち上がり、あちら側からこちら側へと枠をくぐり抜けて出て来る。驚く京ちゃん。彼女がゆのちゃんだ。京ちゃんと似た感じで肉付きもよく可愛らしいけど、切れ長の目から色っぽさもにじみ出ている。京ちゃんとゆのちゃんが何か話している。BGMが大きくてあまり聴こえなかったけど、ここは台詞も聴こえた方が演出的には良かったと思われる。断片的に、ゆのちゃんが「京ちゃんが寂しそうで、可哀想だからわたしが一緒にいてあげる。ずーっと一緒にいてあげる」と言っているのが聴こえた。京ちゃんは戸惑っている。そんな京ちゃんを愛おしそうな目で見つめながらしだいに距離をつめ、ゆのちゃんと京ちゃんの唇が優しく重なる。盆の上で2人は抱き合っている。
「京ちゃんの裸見せて」
ゆのちゃんはそう言って、恥ずかしがる京ちゃんの服を脱がせていく。続けざまに京ちゃんのクリトリスを愛撫し、舌先で転がすと、じらすような眼差しを京ちゃんに向けながら、舞台の後ろまで行って自分のスポーツバッグを取って来る。中から巨大なバイブレータが出て来る。
「こんなの見たことある?」
「ううん」
スイッチを入れてゆのちゃんは京ちゃんのクリトリスにバイブを押しあてる。身悶えして、思わず声をあげてしまう京ちゃんはすぐに、それと分かるぐらい激しい反応でいってしまう。
「ゆのにもして」
「うん」
今度は京ちゃんがゆのちゃんを責める。この時になってから、悲しさから戸惑い、そして恥じらいへと移り変わっていた京ちゃんの表情や語気が楽しさを帯びて来る。京ちゃんのバイブがゆのちゃんのクリトリスへと押しあてられると、京ちゃんの数倍は感じてそうなぐらい激しく身を震わせて、透明な小水を放出するゆのちゃん。断続的に失禁しながら、恍惚の表情を浮かべる。京ちゃんも淫らなゆのちゃんの姿を見て恍惚の表情を浮かべる。感動的だ。2人の愛の芽生えを生々しく体感しているようで、ぼくまで恍惚の気分に浸ってしまうほどだ。
次にゆのちゃんのスポーツバッグから出て来たのは長くてまるでソーセージみたいなフリーダム型のディルド。そしてアナル責めへ。またしても京ちゃん、ゆのちゃんと交互に行う。
「ずっと、ずっと一緒にいようね、京ちゃん」
「ずっと、ずっと一緒だよ、ゆのちゃん」
そんな言葉を親密に交わしながら、京ちゃんとゆのちゃんの恍惚の交わりは続く。だが、観客はまたしても驚かされる。ゆのちゃんが次に取り出したのは針だった。
「これでゆのの身体に傷つけて」
「えっ?」
「京ちゃんの傷をわたしの身体に残して」
「こわいよ……そんなことできないよ……」
「大丈夫だから」
「だめ……できない」
「大丈夫」
「………………やってみる」
ゆのちゃんが差し出した乳首におそるおそる針を貫通させる京ちゃん。ゆのちゃんの絶叫。これまでの流れでは次は京ちゃんの番となる。
「わたしにできるかな」
「大丈夫だよ」
京ちゃんがおそるおそる差し出した乳首にもゆのちゃんの針が貫通する。京ちゃんの絶叫。そしてお互いの、針が貫通したままの乳首を舐め合い、悲鳴と悦びが入り交じった声をあげる。愛し合う2人。音楽とライティングがまるで2人を祝福するかのように明るく包み込み、身を乗り出して釘付けになる観客たち。2人は互いの針を抜き合い、永遠の愛の証である傷を身体に刻み込んだのだった。
最後は、両側に亀頭の付いた一本の長いディルドを互いの膣に挿入して愛し合う。京ちゃんとゆのちゃんの迫真の演技……いや、それは果たして演技なのだろうか……舞台上のそのような愛に包まれた光景をこんな間近で観た経験がない以上、それをどうこう語るすべはないのだが、心どころか全身が揺さぶられるような感動を覚えたのは紛れもない事実だった。単にエロを求めてやって来た観客の多くもそのようなどうにもならない感情に貫かれたのではないだろうか。その時、ストリップ劇場でこれまで感じたこともないような空気が漂っていたと確信している。
舞台はまだ終わらない。快楽の流れから戻って来た2人。ゆのちゃんは京ちゃんをうながして「あっちの世界」でずっと一緒にいようと言う。鏡の向こうの世界のことだ。京ちゃんはとまどう。でも、迷わない。京ちゃんはゆのちゃんの愛を身体に刻んでいるのだから。唇を重ねて抱き合った2人は手をつないで鏡の方へと歩いて行く。鏡の手前、突如ゆのちゃんは京ちゃんを突き飛ばして鏡のあっち側へ放り出す。ゆのちゃんは京ちゃんが身につけていたセーラー服を一枚一枚楽しそうに身に付ける。しばらくしてゆのちゃんが携帯で話始める。相手は「エリちゃん」のようである。
「感じ変わったって? ううん、全然。」
ゆのちゃんが舞台の袖へと姿を消して暗転。これはちょっと後を引く。そう思ったのは観客のほとんどだったようだ。拍手がなかなか出ない。しかし! 音楽が替わって舞台の奥から京ちゃんが白い猫耳を付けただけの全裸で登場する。歓声と拍手! 楽しく飛び跳ねながら京ちゃんの「ご開帳タイム」。やがて黒い猫耳を付けた全裸のゆのちゃんも登場。2人でご開帳タイム。やはりそこはストリップ。でも、この飛び抜けるような明るい2人の姿、ぱっくりと開かれたあそこを見て、ラストの残酷さも救われたのだと言える。この振幅の激しさ。
構成上では、孤独は孤独、結局救えるはずもないという残酷な事実が描かれつつも、記述の上では京ちゃんとゆのちゃんの愛の結びつきとそれを包み込むように注がれる光や音ばかりが記憶に残る。この振幅のある二重性によって、観客は欲情と感動にとどまらないすごいものを体感するんじゃないか。少なくともぼくはそうだった。泣きながら勃起するような、せつないエロスがそこにある。本当に衝撃だった。この舞台の記憶は一生残るに違いない。悲しいことにゆのちゃんはこの舞台が最後だったらしい。驚くべきことに京ちゃんはこの舞台が最初だったらしい。その2人の交差を目撃できたこと、彼女らを包み込むすばらしい舞台をやってのけた紅薔薇座、その場所を提供したDX歌舞伎町……すべてに感謝しよう。あなたたちはみんな最高です。

*1:井口昇によるAV『ロリータ監禁レズ』に少し通じるものがある。

*2:知っている人がいたらぜひ教えてください!