嫌われ松子は本当に監督に嫌われていた?

tido2006-06-13

あれ?『papyrus』の新刊は表紙が中谷美紀か……と思って買ったら、なんか読んだことのある内容だなと思う部分が出てきて、ようやく隔月刊行だったことに気づいた。岡村隆史小島秀夫の対談は以前立ち読みで済ませたのに、とんだ無駄買いだった。せっかくだから中谷美紀のロングインタビューを読んだら『嫌われ松子の一生』では本当にひどい体験をしたようで、中島監督には理不尽な罵詈雑言を浴びせられたらしい。しかもフォローもなく、クランクアップ後は云々という話もなく、おそらく演出法の一種なのかもしれないけど、その過酷な体験が中谷美紀をインドへと旅立たせたわけである。
その罵詈雑言の類を引用すると、中谷美紀が「おはようございます。昨日は何時間お休みになったんですか? 体調はいかがですか?」と訊ねたら、「なんで君にいちいちそんなこと話さなきゃいけないんだよ。ほっといてくれ」と言われたという初日のエピソードから始まり、中谷美紀の髪型を見て「尼崎のおばちゃんみたいだな」、「あんたの感情なんてどうでもいいんだよ」、「顔が気持ち悪い」などが挙げられていた。
何となく感想を見て回った感じでは『嫌われ松子の一生』の中谷美紀の演技を誉めているものが多かったけど、このインタビューを読むと、どうやら『嫌われ松子』はこれまでの芝居の延長線上にあって、つまり、彼女の言葉を借りれば「脚本を読んで、人物の心情の矛盾点をこねくりまわして自分の中であれこれ考えていた」「正しいのかどうかということに厳密であろうとした」のだけど、インドへの旅を経てそのような考えはなくなり、多少の矛盾は許容できるようになったのだという。その心境告白の中で黒沢清の言葉も引用されていた。『LOFT』に中谷美紀は出演しているのだ。
「人間は理由がなくても行動するんです」
いかにも黒沢清らしい言葉である。何事においても一直線上を進んでいては乗り越えられない壁がある。いかなる方法で解脱するのか。殻を破るのか。すでに中谷美紀の話ではなくなってしまっているが、このことはつくづく自分自身の現状について考えさせられる。