無菌空間ラヴホテル

テアトル池袋。今週金曜までだったので雨の中、劇場へと向った。劇場に入って「しまった」と直感した。客層が違う。女性率が6〜7割ぐらいで、残りもカップルが多い。しかもみんな洒落ている。まったく知らない作り手だったので、雨のレイトショーなどがらがらだと油断していた。
最初にメイキングが流れて違和感は確信に変わる。映画はラヴホテルにまつわるオムニバス4話。丁寧に撮られていて、役者陣もそれなりにうまい。色彩設計なども行き届いていて、おそらく低予算だと思われるが、お洒落な空間を演出するのに成功している。それ以上でもそれ以下でもない。洗練されたトレンディドラマといったところか。
ぼくが期待したのは廣木隆一の『ガ−ルフレンド』系の映画だった。もちろん、あの傑作を超えるものじゃなくても、ラヴホテルを舞台にして密室的な関係性を堪能させてもらえるんじゃないかと思っていた。数年前にポツドールがラヴホテルもののオムニバス芝居をやっていて、この前の『夢の城』以前にはその芝居しか観ていなかったので大いにがっかりさせられていただけに、もしやと思ってアンテナを反応させたのだった。
全4話の中では3話目の「SKIN」が多少良かったが、それはセックスシーンが多くて、しかも日頃ぼくが親しんでいるピンク映画とは全く違う撮り方だったので新鮮だったというぐらいである。お洒落な映画を口実にエッチシーンを見る分には、女性にとってこういった映画は必要なのかもしれない。が、それよりは上質な一部のピンク映画を、ちゃんとした映画館で上映する機会を増やす方が良いに決まっている。刺激のないセックスなど見ても仕方ない。セックス機会に恵まれた人たちが共感するにはいいのかもしれないが……。そう、とにかく登場人物の男も女もみんなセックス機会に恵まれている。なのに満たされない(愛がない)、そこまでは別に良いけど、結局満たされない状況を型にはめている気がするし、掘り下げられるわけでもない。唯一、第4話のみがラヴホテルの後取り娘をメインにした虚構的コメディを作り上げている。ただし、かなり虚構性をうまく描いているのは確かだが、虚構空間の演出という側面に限れば、『嫌われ松子の一生』などに比べてしまうとどうしてもむなしく映るだけで、無謀な挑戦に思えてしまう。
ともかく、見せ方の技術はかなり良い線だと思うし、ターゲットとする客層にはウケるような感じはするけど、よくもこういう題材を映画化しようと思ったなぁと感じてしまう薄っぺらさはどうしようもない。そこで関係性が徹底して見つめられでもすれば映画は輝き始めるのかもしれないけど、そうでもない。どうせなら白石一文の小説でも映画化すれば良かったのに、と思ってしまった。