ベケット

『モロイ』について

ベケット42歳の時に完成したと言われるこの『モロイ』だが、40代のベケットは円熟を迎えたようでもっとも濃厚な仕事を行っている。『マーフィ』の完成からおよそ10数年経っているわけである。初めからフランス語で書かれているということを考慮しても…

「ダンテ・・・ブルーノ・ヴィーコ・・ジョイス」について

ジェイムズ・ジョイスの『進行中の作品*1』を擁護するにあたって、ベケットが弱冠22歳で書いた論文である。 前半はヴィーコの主張する「哲学的抽象と経験的例証との間の完全な一致によって、双方の絶対性の失効」について分かりやすく考察している。簡単に…

『マーフィ』について

最初の段落は次のように書き出されている。 それ以外に方法がないままに、太陽はなにひとつ新しいところがないものの上に照り輝いていた。マーフィは、まるで自由であるみたいに、それに背を向けて、ロンドンのウエスト・ブロンプトンの袋小路の奥に坐ってい…

亡霊の視座

死の空間を舞台上に再現させようとしている点で、ベケットの特徴のひとつに「亡霊」というテーマが浮かび上がってくる。「モノローグ一片」など直接「亡霊」という言葉を用いているものもあれば、イメージのレベルでの死を描いているものもある。これは初期…

アウトライン

サミュエル・ベケットについて3週間ほど考える予定。 ベケットにおける亡霊(自我からの離脱) 空虚なる豊穣さ(反射による意味の多様性) ダブリンの風土(オスカー、イェイツ、ジョイス) 芸術上の主題としての欠落あるいは不毛 分身創造(自己訂正あるい…