亡霊の視座

死の空間を舞台上に再現させようとしている点で、ベケットの特徴のひとつに「亡霊」というテーマが浮かび上がってくる。「モノローグ一片」など直接「亡霊」という言葉を用いているものもあれば、イメージのレベルでの死を描いているものもある。これは初期のジョイス論「ダンテ・・・ブルーノ・ヴィーコ・・ジョイス*1で『フィネガンズ・ウェイク』の循環原理に表れる世界観を肯定していることにもつながっていて、ベケットにあっては、死んでも意識は終わらない*2という循環概念が見受けられる。つまり、死後の意識を夢想しているのである。とりあえず、そのようなものを「亡霊の視座」と仮に名付けておく。

*1:「・」の数はそれぞれの人物を隔てる世紀の数に対応する。

*2:この点において、デカルトのコギトを疑っているということが分かる。ベケットの芝居では、存在の役割を果たす人物と、発話=意識の役割を果たす人物が分割されることが多い。