『兵隊やくざ』

とうとう…という感じである。ぼくは数年前の増村保造レトロスペクティブに際して一度観ていたが、それでも痛快でもっとも楽しめる娯楽として名作である。増村保造の特徴である「スピードとエロス」のうち、本作ではエロスは弱い*1ものの、スピーディな演出はうまく表れている。勝新太郎という存在が増村演出と絶妙に調和していて、過激な暴力と戦争の理不尽をまったく嫌な気にさせず、ユーモラスかつ批評的に描いていると思う。
物語の語り手がインテリで身体の弱い上等兵であることも重要で、彼と勝新の同性愛的な関係がドラマの中核を担っているだろう。いくつかのエピソードで、戦争における他者との関係性の滑稽さが描かれているが、この物語のラストにおいて準備した作戦を決行して脱走した際、田村高廣演じる上等兵勝新に「娑婆はお前のほうが詳しいからお前がおれの上官になれ」という関係性の逆転が2人の名コンビぶりを物語っていて爽快だった。勝新三大シリーズのひとつとして、戦争というもっとも抑圧的な状況が舞台であるゆえに、もっとも痛快な娯楽映画となっていて、明後日の『続・兵隊やくざ』以後も楽しみである。

*1:性に関しては「へそ酒」という遊びが登場するぐらいにとどまる。ただし、生の欲動という意味においては存分に発露されていると思われる。