『喜劇・女は度胸』69’

面白すぎる!庶民や労働者の下世話な喜劇。とにかく会話が素晴らしい。渥美清を中心になされるくだらない会話、戯言、罵声が人物関係を見事に描き出していて、シンプルな恋愛模様に激しく色を添えている。カメラワークなどから考えると綿密な計算に基づいた撮影であると予想できるが、それにしても渥美清らの暴走する会話には「台詞」というものに収まらない過激さが見られ、とにかく圧倒的である。
しかし、時にはシーンの尺のバランスを壊しかねないほど暴走する会話が、ぎりぎりのところで喜劇という範疇に収まっているところが素晴らしいのである。四方田犬彦吉田喜重の映画について、メロドラマというジャンルを行きつくところまで徹底することで破壊している、というような主旨のことを言っていたが、森崎東の『喜劇・女は度胸』は、喜劇というジャンルを行きつくところまで過剰にしておきながら、ぎりぎりのところで成立させているのである。だから、ぼくたちは喜劇として奇妙な印象を受けながらも思い切り笑い楽しむことができるのだ。
キャスト陣もこの作品にぴったりで、倍賞美津子清川虹子、沖山秀子などの森崎映画の女優陣は抜群の存在感を誇っている。森崎監督と山根氏によるトークショーでも話題になっていたが、これほど露骨に下ネタを扱う映画はなかなか観られないだろう。しかし、そこに見逃すべきではない重要な点が含まれていることがあると、ぼくは後から考えるようになるのだった。