アキバの未来は幸福か?

藤山哲人著『萌える聖地アキバ』を読了した。著者は秋葉原のあらゆる要素(電子工作、コンピュータ、同人誌、エロゲー、アニメ…etc)を自ら体現してきたような人らしく、森川嘉一郎のようにアカデミックな視点は露ほども見られないのだが、それはそれで面白いのだった。徹底したフィールドワークと内部からの語り*1が、アキバ*2の楽しみ方をマニュアル本のように懇切丁寧に教えてくれるのである。
思えばぼくが秋葉原を初めて訪れたのは高校2年の時だった。大学や会社見学を兼ねた修学旅行においてだった。上野公園の見学が予定されていたところ、薄い監視の眼をかいくぐってひとり秋葉原へと赴いたのだ。もちろん、事前調査はしっかりと済ませてあった。友人たちが原宿や代官山について熟知していたように、ぼくも秋葉原のゲーム、アニメ関係の情報については熟知しているつもりだった。当時は『電撃PCエンジン』をもっとも愛読しており、その時はやがて『電撃G'sマガジン』に変貌する過渡期として、エロゲー美少女ゲームなどの情報の胎動がひしひしと伝わってくる内容だった。
特にPCエンジンの『女神天国』やその母胎となった雑誌上の投稿型連載にはすべての魂を捧げていたので、ルルベル、リリス、ジュリアナ、ステイシア*3パステル、アンジュラ、ルージュ、マハラジャ*4らをめぐる女神サマ争奪戦*5にすっかり身を滅ぼしかけていた。といっても、当時の充実感に勝るものは未だ体験し得ないが…。
そういった個人的な状況、そして『エヴァンゲリオン』のインパクトが直撃した後の秋葉原へとぼくは足を踏み入れたのだった。『萌える聖地アキバ』を読んでいると、その時の未知への希望と畏れの混じった気分が蘇ってくるようで、警戒心を高めながら読み進めなければ、これを読了したぼくは今すぐにでも「聖地アキバ」に特攻しかねない心情になっていただろう。
確かに憧憬としてのアキバは未だにぼくの中にある。今だって月に2、3度はレトロゲームなどの探索に出かけているが、現在のぼくの眼にその街が「聖地」として映ることはないと思う。あってはならないと思う。あの街は財布の紐をゆるめるどころか、ちぎりとってゆく。今はネットで十分だ。
バランス感覚を失わせるアキバの得がたい魅力。それを存分に思い起こさせるだけでもこの本は素晴らしいものだと思う。しかし、服薬には十分注意しなければ…

*1:筆者自ら様々なるオタクだということを自認しているところから発する自嘲的かつ過剰な語り口。

*2:これぞ正式な略称なのだ。筆者によれば秋葉原はもともと「あきばはら」や「あきばっぱら」と地元民に呼ばれていたらしく、明治時代の国鉄が「あきはばら」と読み間違えて、そのまま駅名にしたらしいのだ。追記→後で知ったけどキーワードにその旨が説明されていたので不用だった。一応残しておくけど。

*3:以上、光の女神。

*4:以上、闇の女神。

*5:当時を思い出すと微笑ましいが、記念すべきラジオドラマ化にあたって、それぞれの女神役の声優の賛否両論が吹き上がったのだった。ぼくはもちろんルルベルは椎名へきるリリス国府田マリ子パステルは久川綾がベストと考えた人間だ。どの声優にもどっぷりはまったなぁ…