宅急便配達夫は２度妻を失う

藤田敏八監督による『もっとしなやかに もっとしたたかに』を観る。１９７９年。素晴らしかった。今はあんな姿の奥田英二がナイーヴでこんなにも愛らしく思えるなんて…それだけでも観る価値が十分にある映画だが、ちょっと穿った和製ファム・ファタールの森下愛子のするりと直球をかわしていくような「しなやかさ」、そしてすべて計算ずくのような「したたかさ」がまさに藤田敏八の境地と言えるほどぴったりな感じである。
それに、藤田敏八の作品においては、生活や労働の描写が多いのに、それが鼻につかないのはなぜだろうか？『赤ちょうちん』の神田川臭ささえパロディのようにしてあしらわれ、軽妙に遠ざけていくのである。『もっとしなやかに もっとしたたかに』においても、逃げられた妻を捜し続けるみっともない男＝奥田英二が妻を捕らえてすぐさまセックスに持ち込もうと奮闘する場面、食器がガタガタと机から落ちて脱がされたくちゃくちゃのパンティが畳の上に投げ出されながらの交わり、そして嫌がる妻…と、なんとも日活ロマンポルノ的な情緒の構図なのだが、BGMの軽やかさが重い空気をどこかへ一掃してしまう。
いくら言っても足りないぐらいの素晴らしさ。一度スクリーンで観てみたいものだ。