「売り飛ばしてやる!」

というのは、『激突! 殺人拳』における、何でも屋的な仕事の代金を払えないという娘に対して千葉真一が叩きつける台詞である。ジュンク堂トークセッションとはうってかわって、限りなく濃いオールナイトの時間である。あまりに濃密で4本の作品はぼくの中で混じり合ってしまったようだから、個々の作品論は控えておこう…というかそんな体力はない。
一本目『激突! 殺人拳』は小沢茂弘監督による1974年の東映作品。黒い道着をまとった悪い奴。コォー*1という気合いと激しく歪んだ表情と手に負えない野生動物のような拳法。ただでは死なない黒い火の玉が暴れ回る。凄まじいまでの気合い。この映画の見所はそれだけだ。それだけで十分なのだ。日本語を喋る外国人も、外国人を演じる日本人も、安すぎる小道具・大道具
も、安すぎる物語展開も、どうだっていいではないか。いや、そんなものは風景に過ぎないのだ。これは千葉真一の映画なのだ。
二本目の『直撃地獄拳・大逆転』は石井輝男が監督していることもあってエログロ炸裂といったテイストで、テンポも良く痛快な泥棒劇として十分楽しめる。丹波哲郎の変装も見物だ。しかし、お話としても雰囲気としてもこれは『ルパン三世』である。とりわけ旧ヴァージョンに近い感じ。不二子のポジションにある志穂美悦子は今回のオールナイトの4作すべてで千葉真一と共演していて、いったいどういう女優なのかちょっと気になる。
三本目。『少林寺拳法』は鈴木則文監督による1975年の作品。タイトルとは裏腹にいきなり第二次世界大戦の終わりから始まるのにはおそれいった。冒頭のテロップで「史実に基づく」というようなことが書かれていたが、まさに東映実録路線で少林寺拳法の日本における始まりが描かれる。『仁義なき戦い』と勝新太郎主演の『悪名』を足して2で割った感じがぴったり。ラストシーンは荒野でありったけの人々が少林寺拳法の型を練習していて圧巻。でも、70年代的な先が見えない砂漠な感じが色濃い。
四本目はさらっと流そう。というのも、ぼく自身かなり眠くなってしまったからだ。ぎりぎり踏ん張ったが…。『激殺! 邪道拳』は1977年。監督は野田幸男。これは…かなり困惑する映画だ。タイかどこかのジャングルみたいなところで撮影されていて、現地人らしき人がたくさん出てくるのだけど、千葉真一と日本人俳優らしき人たち以外はみんな日本語に吹き替えられていて、テレ東で昼間に観る安っぽい映画みたいだった。物語の方も、いきなりな展開が多くて、途中で千葉真一がまったく出てこなくなるシークエンスがけっこう長い。それに加えて臭すぎる人情モノときた!どうしてくれようか…と、うとうとしかけていると、ようやく千葉真一登場。しかも麻薬漬けになっていて、体中に電流を流しながら鍛えている。最後まで観ると、これは…『北斗の拳』だ!ラストの対決なんか、まさにケンシロウ対シンそのものだし、爆笑なしには観られないモンタージュによるシュールな北斗百裂拳まがいの技が繰り出されるのは圧巻。
そんな一夜だった。来週の梶芽衣子特集にさらなる期待。

*1:やっと関根勤のもモノマネのオリジナルを見ることが叶ったわけだ。